小さな映画館で上映されていて観に行きたいと思いつつも行けずじまいになっていた作品。その理由は本作主人公の青年イザクと同じで、アンジェリカの死に顔に魅了されたからに違いない・・・(-.-)
■ アンジェリカの微笑み - O Estranho Caso de Angelica – ■
2010年/ポルトガル・スペイン・フランス・ブラジル/97分
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
製作:フランソワ・ダルテマール
撮影:サビーヌ・ランスラン
出演:
リカルド・トレパ(イザク)
ピラール・ロペス・デ・アジャラ(アンジェリカ)
レオノール・シルヴェイラ
ルイス・ミゲル・シントラ
イザベル・ルト
アナ・マリア・マガリャンエス
サラ・カリーニャス
リカルド・アイベオ
アデライデ・テイシェイラ
■解説:
生涯現役を続け、2015年に106歳で永眠したポルトガルの巨匠マノエル・ド・オリヴェイラ監督が101歳の時に撮り上げた作品。若くして亡くなった美女の遺影を任された青年が、彼女の不思議な微笑みに心奪われ体験する幻想譚を描く。主演は監督の孫でもある「ブロンド少女は過激に美しく」のリカルド・トレパ、共演にピラール・ロペス・デ・アジャラ。■あらすじ:
ドウロ河流域の小さな町。ある日、カメラが趣味の青年イザクは、ひょんなことから富豪の屋敷に呼ばれ、亡くなった娘アンジェリカの最期の写真を撮ることに。ところが、イザクがファインダーを覗いた瞬間、アンジェリカの瞼が開き、彼に向かって微笑んだように見えた。以来、アンジェリカにすっかり心奪われたイザク。そんな彼の前に死んだはずのアンジェリカがたびたび姿を現わすようになるが ― (allcinema)
英題:THE STRANGE CASE OF ANGELICA
ポルトガル、ドウロ河流域。
雨の降るある夜、下宿の女主人から奇妙な依頼を伝え聞いた青年イザク。それは死んだ娘の写真を撮って欲しいというもの。え?こんな夜中に?といったん断りかけたものの、依頼主が地元の身分の高い夫人と聞き、断り切れずにお屋敷に向かったイザク。見たことも無いような大きな館に集まる親族や知人らの多さに驚いた彼だったが、それよりも彼の目を釘付けにしたのは、死んだ娘アンジェリカが振りまいている、微笑みをたたえた死に顔であった。
生きているとしか思えない髪のつや、肌の輝き、美しい顔立ち。閉じられた瞳は今にも開きそうで、じっとこちらを見つめられることを想像するだけで鼓動が激しくなってくる。イザクは写真撮影もそこそこに、逃げ帰るように下宿に戻る。そして現像し、仕上がった写真をクリップで部屋にぶら下げたその時から、彼は奇妙な幻影に悩まされることになった。
眠っている時に聞こえてくる物音や声。部屋に誰かがいるような気配。だがそれは次第に形を取り始める。美しく光り輝くアンジェリカとなって。
その頃には食事もろくに摂らずにげっそりとなり、どこか遠くを見つめているイザクを下宿の主人や住人たちが心配を始めるほどになっていた。アンジェリカの名を呼び街をさまよい、彼女の屋敷近くをうろつくイザク。
この後、彼に救いはあるのだろうか ―
とても静かに、写真や絵画がさらさらと流れていくようなカメラの動き。新しいのか、古いのか。現在なのか過去なのか。色々な時代や物がない交ぜになって、ゆっくりとイザクの生き方を前から後ろから追っていく。
カメラが趣味の青年。一人で下宿に住む若者。言葉数は少ないが、真面目で品行方正な事は同じ下宿の住人には分かっている。だから気が付き心配をしたのだ、最近の彼はどこかおかしいと。
そのイザクが選んだ道は、それらの全てを捨て一直線に空に向かうものだった。意外でもなんでもない。何気なく繰り返される毎日に、実は不満を持ち、不安を感じ、儚くもろい足下を踏み固めもせずに一歩一歩仕方なく進んでいる者は多いのだ。
未来に何も描くことが出来ない日々。
もう進む必要が無くなったアンジェリカこそ、美しく微笑んだ若い姿のまま、人々の記憶に残り続ける彼女こそが、実は人の理想の未来なのだろうか ―
監督はポルトガルの映画監督マノエル・ド・オリヴェイラ
マノエル・ド・オリヴェイラ
ポルトガルの映画監督。ポルト県ポルト出身。現役最高齢の劇映画監督であった。若い頃は俳優を志し、スペインやイタリアで学んだ。
監督デビューは23歳と早かったが、本格的かつ定期的に作品を創り上げるようになったのは、幾度かの監督業休眠期間を経た60歳を過ぎてからである。63歳の時に撮った『過去と現在 昔の恋、今の恋』(1971年)以降世界的に注目を集め、1980年代に入り70歳を過ぎてからは1年に1作に近いペースで新作を撮り続けた。2006年、97歳の時にルイス・ブニュエル監督の『昼顔』(1967年)のオリジナル続篇『夜顔』を撮り上げた。2010年には新作『O Estranho Caso de Angélica』を撮り上げた。2014年の秋には、105歳で『レステルの老人』をベネチア映画祭に出品した。2015年4月2日、死去。
■主な監督作品
・ドウロ河 Douro, Faina Fluvial(1931年)
・アニキ・ボボ Aniki Bóbó(1942年)
・春の劇 Acto da Primavera(1963年)
・過去と現在 昔の恋、今の恋 O Passado e o Presente(1972年)
・フランシスカ Francisca(1981年)
・文化都市リスボン Lisboa Cultural(1983年)
・繻子の靴 O Sapato de Cetim(1985年)
・カニバイシュ Os Canibais(1988年)
・ノン、あるいは支配の虚しい栄光 ‘Non’, ou A Vã Glória de Mandar(1990年)
・神曲 A Divina Comédia(1991年)
・アブラハム渓谷 Vale Abraão(1993年)
・階段通りの人々 A Caixa(1994年)
・メフィストの誘い O Convento(1995年)
・世界の始まりへの旅 Viagem ao Princípio do Mundo(1997年)
・不安 Inquietude(1998年)
・クレーヴの奥方 La lettre(1999年)
・家路 Je rentre à la maison(2001年)
・家宝 O Princípio da Incerteza(2002年)
・永遠の語らい Um Filme Falado(2003年)
・O Quinto Império – Ontem Como Hoje(2004年)
・Espelho Mágico(2005年)
・夜顔 Belle toujours(2006年)
・コロンブス 永遠の海 Cristóvão Colombo – O Enigma(2007年)
・それぞれのシネマ(2007年)※オムニバス映画、3分の短篇
・ブロンド少女は過激に美しく Singularidades de uma Rapariga Loura(2009年)
・アンジェリカの微笑み(英語版) O Estranho Caso de Angélica(2010年)
・家族の灯り O Gebo e a Sombra (2012年)
・ポルトガル、ここに誕生す〜ギマランイス歴史地区Centro Histórico (2012年)
・レステルの老人O velho do Restelo (2014年)
(Wiki:マノエル・ド・オリヴェイラ)