『レヴェナント: 蘇えりし者』(2015) - The Revenant

息子を殺された男の復讐物語― そんな単純な作品ではございません。父親にとっては生死をかけた決意だが、広がる圧倒的な大自然の中では些細な事でしかなく、弱肉強食世界の中では自然淘汰の一つにすぎない。

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■ レヴェナント: 蘇えりし者 - The Revenant – ■
2015年/アメリカ/156分
監督:アレハンドロ・G・イニャリトゥ
脚本:マーク・L・スミス、アレハンドロ・G・イニャリトゥ
原作:マイケル・パンク「蘇った亡霊:ある復讐の物語」
製作:アーノン・ミルチャン 他
製作総指揮:ブレット・ラトナー 他
撮影:エマニュエル・ルベツキ
音楽:坂本龍一、カーステン・ニコライ
 
出演:
レオナルド・ディカプリオ(ヒュー・グラス)
トム・ハーディ(ジョン・フィッツジェラルド)
ドーナル・グリーソン(ヘンリー隊長)
ウィル・ポールター(ジム・ブリジャー)
フォレスト・グッドラッグ(ホーク)
ドウェイン・ハワード
アーサー・レッドクラウド
グレイス・ドーヴ
ポール・アンダーソン
ルーカス・ハース
ブレンダン・フレッチャー
クリストッフェル・ヨーネル
ジョシュア・バーグ
ロバート・モロニー

解説:
「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」のアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督がレオナルド・ディカプリオを主演に迎え、過酷な大自然の中で繰り広げられるひとりの男の壮絶な復讐劇を壮大なスケールで描いたサバイバル・アクション・アドベンチャー。共演はトム・ハーディ。第88回アカデミー賞では監督賞、撮影賞に加え、極寒の大自然を相手に体当たりの熱演を披露したレオナルド・ディカプリオが、みごと悲願の主演男優賞を初受賞した。

あらすじ:
1823年、アメリカ北西部。狩猟の旅を続けている一団が未開の大地を進んでいく。ヘンリー隊長をリーダーとするその集団には、ガイド役を務めるベテラン・ハンターのヒュー・グラスとその息子ホーク、グラスを慕う若者ジム・ブリジャーや反対にグラスに敵意を抱く荒くれハンターのジョン・フィッツジェラルドなどが一緒に旅をしていた。ある時、一行は先住民の襲撃を受け、多くの犠牲者を出す事態に。混乱の中、グラスたち生き残った者たちは船を捨て陸路で逃走することに。そんな中、グラスがハイイログマに襲われ、瀕死の重傷を負ってしまう。ヘンリー隊長は旅の負担になるとグラスを諦め、ブリジャーとフィッツジェラルドに彼の最期を看取り丁重に埋葬するよう命じるのだったが ―

(allcinema)


作品冒頭。
カメラがどんどん近づき、流れる川がスクリーン一杯に広がる頃、劇場内は水の流れる音で満たされる。だがそれは川ではなく、森の中に溢れてきた雪解け水なのか、歩く男の足が大写しになった時には緊迫した状態であることが分かり始める。
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これは川だけど・・

このようにこの作品は、人ではどうすることも出来ない圧倒的な大自然と、人の情念ドラマとが絡み合いながら進められていく。時代は19世紀初頭。アメリカ北西部開拓の時代であるから大自然が舞台であることは当然で、そこに古くから住む動物や先住民族との軋轢も広がるばかりなのである。

特に今回登場する毛皮ハンターは毛皮を扱う企業に雇われた罠師たちの一団で、まとめる者は軍人ではあるものの、金が絡んでいるために一筋縄ではいかない連中の集まりだ。その一団の現地ガイドを務めるのが主人公ヒュー・グラスと息子のホーク。ホークは先住民の妻との間の子であるが、妻は白人による村襲撃で犠牲になった。グラスは息子に教え込む。
“決して目立たず、刃向かうな。”
そうしないと吊るし首になってしまう。

このヒュー・グラスという男は実在の人物である。そしてこの物語も彼の半生がベースとなっている。

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(Hugh Glass、1780年頃 – 1833年)
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アメリカ西部開拓時代のフロンティアの罠猟師で毛皮商、探検家。
ペンシルベニア州のスコットランド系移民の家庭に生まれ、ミズーリ川沿いに現在のモンタナ州、ノースダコタ州、サウスダコタ州およびネブラスカ州のプラット川にわたる地域を探検した。
ハイイログマに襲われて重症を負い旅の仲間に見捨てられながらも生還した話は長い年月にわたり語り継がれ、『Man in the Wilderness』(1971年) および『レヴェナント: 蘇えりし者』 (2015年) として映画化されている。 映画では1823年のアシュレー将軍探検隊に加わったグラスがひとり取り残されると、武器も食料も失いながらもサウスダコタ州のフォート・カイオワまで320キロもの道のりを粘り強く這うように進み、生還するのである。
(Wiki:ヒュー・グラス)

フロンティアのヒーロー的存在の彼だから少々の脚色はあるだろうけど、今回はそこは全く関係ない。それほど本作の大自然的な描写は、まるでBBC制作『アース』かと間違うほどの臨場感と恐怖感で迫ってくる。加えてそのシーンに入り込んだかと錯覚するほど滑らかに動くカメラワークが背景の自然と一体となることで、自分自身がグラスになり、フィッツジェラルドになり、木になり枝になり、風になり、水になる。
それほどに過酷で圧倒的な荒野なのだ。
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そういえば、前回のレビュー『グリーン・インフェルノ』は、環境破壊と活動家、先住民のコワイお話だった。ずっと守られてきたものにズカズカ入り込み、無理矢理破壊、変更、所有するという事は、どちらの側にも大きなリスクが伴う。この事は実はアメリカ大陸が発見された時に既に分かっていた。何十年も何百年も人はそれを繰り返している。それは遠く離れた地に住む全く関係のない人々が受ける恩恵であることも多いが、やはりそのリスクはいつかは周りに回って受けることになり、返すことになるのだろう。
ディカプリオも環境保護のために活動する人々の一員である。

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ハイイログマに襲われ重傷を負うシーンは、リアルとしか言いようがなく圧巻であった。彼が重傷を負いながらも一命を取り留めた理由は、彼のなんとしても“生きる”という本能のなせる技。同時にこの熊が腹を空かせたための襲撃ではなく、子熊を守るための襲撃であったことも助かった理由の一つ。
重傷を負いながら反撃し、熊を仕留めたタフな彼の名が「グラス」というところも面白い。生物の権利ともいうべき“生きる”という本能こそが彼の行動の原点であり、これからもそれがベースとなる。

グラスは復讐の旅を始める。
ボロボロの身体を引きずり出発する。目の前には過酷な白い大地が広がる。だが自然を「守る」ということは自然に「挑む」ということであり、同時に自然を「味方に付ける」ということだ。仕留めた熊の毛皮にくるまり、熊の霊力を味方につけて最初の一歩を歩き始めた彼は熊でもあった。
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自然界の生き物は決して楽しむために他の生き物を殺さない。快楽のために他の生き物に危害を加えない。グラスはラストでそれを思い出すのだ。生きる権利を与えられた自分と他者。他者の持つ権利を個人的な理由で奪うことは出来ない。それが出来るのは神だけであり、グラスは神に委ねる。
自然とは、なるように、なるのだ。必ず

そして同時に、権利には必ず義務が伴うことも忘れてはならない。グラスも忘れてはいなかっただろう。

圧倒的な迫力で迫ってくる過酷な大自然。これを映画館で鑑賞しないことは人生の損失。ぜひ劇場へ。より大きなスクリーン、良い音響効果施設がお勧め。決してディカプリオ中心のディカプー作品じゃないから(・∀・)
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