『ノクターナル・アニマルズ/夜の獣たち』 (2016) - Nocturnal Animals

どんなお話だろう?と軽い気持ちで観始めたものの、思った以上に延々と続く奇抜で奇妙で奇天烈なオープニングに「あぁ・・・ これは只者ではない・・・」と久し振りにうんワク(うんざりしつつ、と同時にワクワクする様)を感じたのだった

■ ノクターナル・アニマルズ/夜の獣たち - Nocturnal Animals – ■
2016年/アメリカ/115分
監督:トム・フォード
脚本:トム・フォード
原作:オースティン・ライト「ミステリ原稿」
製作:トム・フォード他
撮影:シェイマス・マクガーヴェイ
音楽:アベル・コジェニオウスキ
 
出演:
エイミー・アダムス(スーザン・モロー)
ジェイク・ギレンホール(トニー・ヘイスティングス / エドワード・シェフィールド)
マイケル・シャノン(ボビー・アンディーズ警部補)
アーロン・テイラー=ジョンソン(レイ)
アイラ・フィッシャー(ローラ・ヘイスティングス)
アーミー・ハマー(ハットン・モロー)
ローラ・リニー(アン・サットン)
エリー・バンバー(インディア・ヘイスティングス)
ロバート・アラマヨ(ターク)
カール・グルスマン(ルー)

解説:
映画監督デビュー作「シングルマン」で高い評価を受けたカリスマ・デザイナー、トム・フォードが、オースティン・ライトのベストセラー・ミステリーを実力派キャストの豪華共演で映画化したサスペンス・ドラマ。

あらすじ:
アート・ディーラーとして成功を収めながらも夫との結婚生活は冷え切り、満たされない日々を送るスーザン。ある日そんな彼女のもとに、20年前に離婚した元夫エドワードから彼の著作『夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)』が送られてくる。作品が彼女に捧げられていることに困惑しつつも、早速読み始めたスーザン。そこに綴られていたのは、車で移動中の家族が暴漢グループの襲撃に遭い、妻と娘が殺され、夫は刑事と共に犯人たちを追い詰めていくという壮絶な復讐の物語だった。そのあまりに暴力的な内容と完成度の高さに衝撃を受けながらも、これを彼女に捧げたエドワードの意図をはかりかねるスーザンだったが ―
(allcinema)


映画のラストは観てない人には話さないっていうのがマナーだと思うんだけど、本作はラストよりも冒頭を話さないでおいた方が(観た知人の反応を楽しめるという意味で)よい作品である。このデヴィッド・リンチ作品のような、古いフリーク映画(失礼)のような、観る者を長時間不安に駆り立てる、ある種破壊的な映像は、もちろんそのままその後に引き継がれる大事な要素。
ここを抑えておくと、その後の、特に後半からラストへの展開に、そう慌てずについて行ける(と思う)
 

アート・ディーラーとしてニューヨークで成功を収めているスーザン。実業家の夫と共にセレブな毎日を送っているものの、実は夫の事業は傾いてきており、いつ破産するかわからない綱渡りな状態。当然スーザンの精神状態は不安定で夫の浮気を疑いながら、この結婚の終わりが見え始めている。
そんなある日、一人目の夫のエドワードから書き下ろしたばかりの彼の著作「夜の獣たち」が送られてくる。夫のいない長い夜、一人ワインを片手に読み始めた彼女は、すぐにその世界に引き込まれていく自分に気が付いた。

テキサスの田舎道を車で移動する夫婦と娘の家族。反抗的な10代の娘に手を焼きながらもごくごく普通の一家の日常。だが1台の車を追い越したことから、とんでもない事件に巻き込まれていく。

この劇中劇である元夫エドワードの小説は作品内でそのまま映像化されていく。それは小説を読むスーザンの想像上の世界でありながら実にリアルで、話が進むに連れスーザンの過去ともシンクロ。現実と過去、小説の世界が同時に進行する。だが登場人物たちの年齢や雰囲気がうまく描き分けられており混乱することはない。
それよりもアート系のセレブ女性スーザンの過去が明らかになるにつれ、彼女に親近感を抱くようになる。だがラスト近く全てのストーリーが収束しだす頃には、いったい彼女はどういった人物なのだろうか?と考え出す。そして
 ―彼女の過去はどこまで本当なのだろうか?
 ―見せられている現実全てが事実なのだろうか?
と、疑心暗鬼に陥る自分に気が付くのである(-ω-)

これこそが最初に書いたリンチであり、精神的フリークの世界観である。

【さてここからはネタバレが。未見の方はお気を付けください】

スーザンにはいつまでも全てを相容れない母親の存在がある。金持ち然とした言動にいちいち反抗する娘スーザン。けれども周囲の人間に言わせれば彼女は母親そっくり。それはいったいどういうことなのか?
ま、よくある母娘の関係だとも思うけど、この過去と現在、小説が三位一体となっている今の状況では、この母そっくりの娘スーザンの存在がとても大きなものとなる。彼女は小説を読むだけのとても冷静な傍観者というわけにはいかなくなるのである。

小説「夜の獣たち」で夫トニーは暴漢たちに妻と娘を奪われ失意のどん底につき落とされる。この部分はそのままエドワードの過去と被る。子供の堕胎を一人で決めた上、別れを告げた妻スーザン。理由は将来に希望が持てない、あなたに希望が持てない、という愛の冷めた冷たいもの。(今まで気が付かなかったエドワードもアレだが)彼はいきなり理不尽に無理矢理どちらも奪われたのだ、スーザンに。
「夜の獣たち」は私小説であるがゆえに、表紙をめくった先に書いてあった「for Susan」という言葉と共にスーザンの胸をえぐる。過去に立ち戻らずにいれないほどに。
若く初々しく夢に向かって日々を送るエドワード。だが彼を見つめるスーザンは少しずつ結婚を決めたときの母親の言葉を理解していく。ぃゃ、はっきりと母を意識していなかったかも。なぜなら彼女は母親とそっくりなのだから。

妻娘を無残に殺されたトニー。彼は最後、自分の行動さえも許せずに自死に近い形で人生を終える。これが私小説であるのならエドワードはスーザンと別れてどうなったのか・・?「弱い」と言われ続けた彼はどうなったのか?
私は自殺したな、と思ったんですよねー。それも結構前に。
じゃあ、この小説を書いてよこしたのは誰ですか?
一人しかいません。

スーザンです。

創作の才能を自ら封印したスーザン。現実主義の彼女は創作よりも実利を求めた。が、善良さも持ち合わせる彼女はエドワードに対する罪悪感がどうしてもぬぐえない。現実主義の自分に満足しながらも後悔と、自分に厳しすぎる姿勢が自らを苦しめる。
それら全てを理解し指摘してくれた上で愛してくれていたエドワード。自分の全てを受け止めてくれていた優しく「弱い」エドワード。その彼を子供もろとも、いとも簡単に捨てた彼女。

彼女は小説のレイであり、アンディーズ警部補であり、トニーの妻であり、娘であり、トニーでもある。なんとか物語の落としどころを探しているのだ。
この苦しみは、まさに小説の中のトニーと同じ。彼の落としどころは警部補の力を借りて復讐することだと思われた。

REVENGE
成功したとしても復讐は決して自分を解放してくれないのだ。
復讐したのは誰なのか?トニー?エドワード?
いつしか妄想の虜になったスーザンは、全ての登場人物に自分を重ねる。そして小説を書き終え、自分に送り、有名レストランで会う約束を取り付けることで許しを得ようとする。

でも同時に、現実ではまた彼女は繰り返そうとしている、過去の過ちを。
将来に希望を持てない夫を捨てることを ―
 

監督 トム・フォード
アメリカ合衆国テキサス州オースティン出身のファッションデザイナー、映画監督、また、彼の名を冠したファッションブランドである。
デザイナーとして活躍しながら2009年、クリストファー・イシャーウッドの小説を原作とする映画『シングルマン』を発表し、映画監督デビュー。本作は第66回ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門に出品され、主演のコリン・ファースが男優賞を受賞し、第82回アカデミー賞主演男優賞にもノミネートされる。 2016年、長編映画第2作目となった『ノクターナル・アニマルズ』が第73回ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門に出品される。作品は高く評価され、審査員大賞を受賞する。
■主な作品
・ズーランダー 2001年(出演)
・シングルマン 2009年(監督・脚本・製作)
・ニューヨーク・バーグドルフ 魔法のデパート 2013年(出演)
・マドモアゼルC ファッションに愛されたミューズ  2013年(出演)
 
(wiki:トム・フォード)

ところで、えらく痩せ細ったマイケル・シャノンが心配・・・