『ノーカントリー』(2007) - No Country for Old Men

人から奪うこと、もしくは、他のヤツよりも“より”奪うことで満足する人間達が次々出てくるクライム・バイオレンス。平凡な毎日を暮らす一般市民でさえ、何か引き金さえあれば諍いを始め、狂気の深層心理が恥も外聞も無く吹き出てくる。お金ってコワイよね。でも無くちゃ生きてけないし…

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■ ノーカントリー - No Country for Old Men – ■
2007年/アメリカ/122分
監督・ 脚本:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
原作:コーマック・マッカーシー「血と暴力の国」
製作総指揮:ロバート・グラフ 他
製作:スコット・ルーディン 他
撮影:ロジャー・ディーキンス
音楽:カーター・バーウェル
 
出演:
トミー・リー・ジョーンズ(エド・トム・ベル保安官)
ハビエル・バルデム(アントン・シガー)
ジョシュ・ブローリン(ルウェリン・モス)
ウディ・ハレルソン(カーソン・ウェルズ)
ケリー・マクドナルド(カーラ・ジーン・モス)
ギャレット・ディラハント(ウェンデル保安官助手)

 

解説:
「ファーゴ」など、今や米映画界にとって貴重になった作家性を刻み続ける鬼才コンビ、コーエン兄弟が、コーマック・マッカーシーの「血と暴力の国」を映画化。全編にわたって緊張感あふれるサスペンス&バイオレンスが展開する一方、T・L・ジョーンズ演じる老保安官が時代の荒廃を嘆く姿も描くなど現代への警告も盛り込み、単なる娯楽を越えた見ごたえ満点の傑作に仕上げた。キャストでは、不思議な髪形で役作りしたことも含め、圧倒的な恐怖感を醸した殺し屋役のJ・バルデム(アカデミー助演男優賞受賞)が突出。
(WOWOW)

あらすじ:
テキサスの荒野で猟をしていた男モスは、麻薬絡みで起きたらしい銃撃戦の現場を見つける。辺り一面に死体が転がり、残された車には大量の麻薬の包みがそのままに残されていた。麻薬には興味を持たなかったモスだったが、大金が収められた鞄を見つけた時、思わず妻の待つ自宅に持ち帰ってしまう。だがそれがトラブルの始まり。それがマフィアの金だったことから、殺し屋に追われるはめに ―


この映画を初めて観た時の衝撃は今でも覚えている。
とにもかくにも、ハビエル・バルデム演じる殺し屋シガー。ごつい顔にビートルズのような髪型ともっとごつい身体。酸素ボンベ形状の超強力な武器。コレが銃を撃つと同じような威力を持っているということは、この作品で教えてもらった。
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あまりしゃべらない寡黙な殺し屋かと思いきや、しゃべり出すと止まらない。でもその内容は独りよがりで、とてもコミュニケーションとは言えない代物。シガーは元より、コミュニケーションなど必要としていない。殺しの標的を知らされ、職務を遂行するのみ。その職務でさえ、こうした方が自分にとってお得と分かれば、あっという間に雇い主の息の根を止めることも厭わない。
根っからのサイコ・キラーである。

その彼を手こずらせた一人の男が居た。
テキサスで若い妻と細々暮らす中年男ルウェリン・モス
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“う~ん、マンダム”のチャールズ・ブロンソンにちょっと似ているのは『オールド・ボーイ/アメリカ版』(2013)のジョシュ・ブローリン

こう見えてこの男モスは目と鼻が良く利いて、どんな些細な事も見逃さず、後で後悔しないように行動できるテキサスのハンターでもある。この男は基本、良心に沿って行動する善良な一般市民であるが、この日、西部の荒野で200万ドルを発見、手にしてしまう。
当然彼は、その金が麻薬犯罪絡みだと分かっており、すぐにこの地を離れる段取りをするが、彼の持つちょっとした良心が、金の持ち主に金を盗んだのはモスだと知らしめてしまうことになってしまった。バラバラに逃げることになったモスと愛妻カーラ。追うのは殺し屋シガーだ。

頭が良く、仕事の出来る男が二人。
彼らの逃亡劇と追跡劇は、次々と死体を生み出しながら移動していく。それを追うのがテキサスの保安官エド・トム。演じるのはトミー・リー・ジョーンズ (ちょうど同じ頃、彼の『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬(2005)』を観たものだから、ちょっと記憶が本作とごっちゃに…)。
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このエド・トムの語りが本作初っ端に入る。
内容はあまりに増えた残虐な犯罪を憂えたもので、語りと言うより嘆きに聞こえてくる。この語りのすぐ後にシガーの(本編では)最初の殺しの場面が入るのだけど、これまた強力なインパクトとともに人間の残虐さが表現される。シガーはエド・トムにとって、「新しき悪いアメリカ」(古き良きの反対)を具現化した存在となっているのだ。エドはシガーを追うが、捜査自体は単純ではあるものの、同じ人間としてシガーの行動を理解することが出来ず、うんざりしており引退を考え始めている。
「もう、自分の力ではこのアメリカをどうすることも出来ない・・・」

原題の『No Country for Old Men』は「老人が暮らせる国はない」というような意味だが、エド・トムの気持ちを鑑みると、「アメリカは変わってしまった・・・」となるのか。この作品は1980年のテキサスが舞台で、モスはベトナム帰還兵という設定だ。だから大怪我をしても冷静でいられるし、ベトナム帰還兵ということで病院の寝間着のまま国境を越えることも出来た。作品内で説明は無かったが、慣れた手つきで傷の手当てをしているのを見るにシガーも同じくベトナム帰還兵なのではないかと思う。要するにシガーは戦争後遺症を発症している、ある意味アメリカの被害者なのでは、と。
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そんなこんなで、本作はサイコな殺人鬼が生き延びる様を描いているだけではなく、戦争、犯罪、貧困、差別等々、現代アメリカの社会問題をも浮き彫りにしていく。犯罪に関わってしまったら良くない未来が待っている。あれほど用心深い男も巻き込まれてしまった。妻もきっと殺されただろう。
後に残ったのは殺人鬼の背中だけ。エド・トムでなくてもうんざりする。

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