『グッドナイト・マミー』(2014) - Ich seh, ich seh

「未体験ゾーンの映画たち2016」第6弾。時間が合わなくて映画館で見損ねた作品。母親と双子の少年たちの静かでありながら鬼気迫る表情に釘付けになる、サイコスリラー作品。今回の未体験の中で一番好きかも

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■ グッドナイト・マミー - Ich seh, ich seh – ■
2014年/オーストリア/99分
監督・脚本:ヴェロニカ・フランツ、ゼヴリン・フィアラ
製作:ウルリヒ・ザイドル
撮影:マルティン・ゲシュラハト
 
出演:
ズザンネ・ヴースト
エリアス・シュヴァルツ
ルーカス・シュヴァルツ
ハンス・エッシャー
クリスティアン・シャッツ

解説:
各地の映画祭で評判を呼び、ホラーファンの間で世界的に話題となったオーストリア発のサイコロジカル・スリラー。整形手術を受け、顔全体に包帯を巻いて帰ってきた母親の不可解な振る舞いに、次第に疑念が深まり恐怖に囚われていく双子の兄弟が辿る衝撃の顛末をスタイリッシュな筆致で描き出す。本作の製作を務めたウルリヒ・ザイドル監督の“パラダイス3部作”で脚本を担当したヴェロニカ・フランツが、ゼヴリン・フィアラとともに脚本・監督を手がけた。2016年1月~3月開催の<未体験ゾーンの映画たち2016>にて上映。
(allcinema)

あらすじ:
森と畑に囲まれた一軒家で暮らす双子の兄弟エリアスとルーカスの元に入院していた母親がようやく戻ってきた。だが頭部を包帯でグルグル巻きにした姿はとても恐ろしく、その上、きつい言葉で兄弟を叱責。見た目も中身もとても本物の母親とは考えられない2人は、彼女を疑い試すようになるが、その行為は次第にエスカレートしていき ―


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トウモロコシ畑で、湖で、森の中の炭鉱跡で、、
自然の中で自由に走り回り遊ぶ少年たち。自宅も広いが、その周りには広大な遊び場が広がり、時々、兄弟の一人エリアスがルーカスの名を呼ぶ、なんとも心許ない悲しげな声が湖の水面にこだまする。
二人は自然と対等であったが、一歩、家に入ると違っていた。

その日、風が吹き渡る畑に人工的なエンジン音が聞こえてきた。車から降りてきたのは待ちに待った母親の姿、のはずだった。けれども顔と頭を包帯で巻き、見えるのは赤く濁った二つの瞳と腫れたような唇だけのその女。
まるでモンスターだった。
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それにこのモンスターは事あるごとに二人を叱りつけ、鍵を閉めて部屋に閉じ込める。あの優しい母はいったいどこへ?きっとこの女が入れ替わったに違いない。これは本物の僕らのママじゃない。
それは包帯が外れても同じだった。だってその女はどこか母親と顔が違い、あるべき場所のほくろさえ無くなっていたのだ。


ここまでの前半は、森や湖、自然の中の一軒家と少年たちというファンタジーな世界と包帯でグルグル巻きにした頭を持つ、まるでフランケンシュタインの花嫁みたいな母親との対比に、どこか気持ち悪いダーク・ファンタジーのような感じでお話は進んでいく。
登場人物の背景説明はほとんど無く、どうして母親がこんな状態なのか、子供二人は母親がいない間、ずっと二人っきりだったのか?どうやって暮らしているのか?などは分からない。
あわせて、この今の状態。母親は本物なのか、精神的に何か病んでしまったのか、少年たちはどうなってしまうのか、などと少年たちに同情し、かつ真相が分かることにビクつきながらも楽しみにしてしまう。
 母親は“何か”なんだ、きっと…

ところが、母親の包帯が外れた頃、少年たちは本物じゃないという疑問が確信になったようだったが、こちらは「おや?」となってくる。包帯を外した顔の優しげな感じに、この女性がいらいらしていたのは包帯状態や他の何かのストレスが重なっていただけだったのでは?

それに少年たちの言い分をようく聞いていくと、怒りっぽい母親に文句を言っているのではなく、もっと大事なこと。もっと大切な基本的なことでやり方が気に食わず、本物の母ではないと確信していることが分かってくる。
ぃゃ、実は冒頭の湖のシーンくらいには勘のいい方は何となく分かっていた事実。
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少年たちではなく、観ているこちらの疑問が確信になった頃、この物語の真実が徐々に解明されていく。
 
 
【ここからはネタバレが】 
 
 
 
 
この家族に起きた悲劇。
一つの事故が起きたことで唐突に家族の一人ルーカスが亡くなり、母親が大怪我を負う。一度に二人を失ってしまったかのような暗闇に落ちていった少年エリアス。だが彼はどちらも失うわけにはいかなかった。しばらくしたら母が戻ると分かったのだから、他は以前と何も変わらない。自分の分身ルーカスは変わらずそばに一緒にいる。エリアスはそうやって母不在の間、過ごした。特に違和感もなく。
戻った母親も当然それを受け入れるべきだったのだ。
だが彼女は違っていた。

ich-seh-ich-seh_14父親が一度も話しにさえ出てこないのをみると、この家族は三人で支え合って暮らしていたのだろうと考えられる。経済的には問題なく、飾ってある写真を見ても楽しそうなものばかり。だがその毎日を続けるため、たった一つ条件があるとすれば“三人一緒”ということだったのか。特にそれは今回無事に生き残ったエリアスに根強い。一つのことへの執着心は、強ければ強いほど、壊れたときの反動も強い。エリアスは自分を守るため、ルーカスを存在させ、ルーカスを認めない女を攻撃した。この際、本物かどうかは問題なかった。認めないことが許せなかったのだ。
ルーカスを見つめるまなざし、優しい言葉かけが出てくる唇。その二つを徹底的に攻撃している点も興味深い。潰してしまえば二度とルーカスを見ることが出来なくなるというのに。それはエリアスにはルーカスが死んだという真実が分かっている証拠でもある。外から覗く者など誰もいないのに、秘密を隠したい時にブラインドを閉める様子も彼らの心の隙間を表すようだ。

ラストは自然を背景に佇む笑顔の三人で締めくくられる。ここまでの行動は全てエリアスが考え行ってきたことなのだから、彼にとって元の三人の生活に戻るためには全て必要なことだったに違いない。生の世界にルーカスを呼び戻すのではなく、死の世界に皆で旅立つ。
だが、本当にエリアスはあの時、死亡したのだろうか ―?

ラスト近く、消防車が集まっている横を場にそぐわないヒラヒラしたドレス姿の女性が歩いて行くのが小さく見える。唐突に現れたその女性は間違いなく母親だ。そこにエリアスはいなかったように思う。ではラストの笑顔の三人はエリアスと想像の世界の家族二人なのだろうか

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