夫の浮気を疑う妻が、その確証を得るため、若く美しい売春婦を雇って夫を誘惑するよう仕向けるのだが…。3人の男女の間で繰り広げられる愛憎劇をスリル満点に描く問題作。

■CHLOE/クロエ - Chloe -■

Chloe

2009年/アメリカ・カナダ・フランス/96分
監督:アトム・エゴヤン
脚本:エリン・クレシダ・ウィルソン
製作:ジョー・メジャック、アイヴァン・ライトマン
製作総指揮:ジェイソン・ライトマン
撮影:ポール・サロッシー
音楽:マイケル・ダナ

出演
ジュリアン・ムーア(キャサリン)
アマンダ・セイフライド(クロエ)
リーアム・ニーソン(デヴィッド)
マックス・シエリオット(マイケル)
R・H・トムソン(フランク)

解説:
「エキゾチカ」「秘密のかけら」など、これまでにも複雑な人間心理を、重層的な話術を通してスリリングに描いてきたカナダの鬼才A・エゴヤン監督が、フランス映画「恍惚」のリメイクに挑戦。オリジナル版ではファニー・アルダン、ジェラール・ドパルデュー、エマニュエル・ベアールがそれぞれ演じた主役陣を、本作では、「エデンより彼方に」のJ・ムーア、「シンドラーのリスト」のL・ニーソン、そして「マンマ・ミーア!」のA・セイフライドと、いずれ劣らぬ人気・実力派が顔をそろえ、息詰まる演技合戦を披露。

WOWOW

あらすじ:
産婦人科医として成功し、自らの医院を経営して忙しい毎日を送るキャサリン。誰もがうらやむ家庭も持ってはいたが、大学教授である夫デヴィッド、一人息子のマイケルとはすれ違いの日々が続いていた。
そんなある日、夫の携帯を盗み見したことがきっかけで、夫の浮気を疑うようになる。その疑いは日に日に大きくなり苦しむキャサリンは、たまたま出会った娼婦クロエにお金を払い、夫を誘惑し、その成り行きの全てを報告するように依頼する-


ジュリアン・ムーアといえば、『ハンニバル(2001)』『フォーガットン(2004)』『トゥモロー・ワールド(2006)』を思い出しがちだが、実は『めぐりあう時間たち(2002)』のような、精神的にまいっている普通の主婦役がうまい。
本作では、ばりばり働く産婦人科開業医でありながら、夫と息子とのすれ違いの毎日に傷つき、苦悩している一人の女性を演じている。

Chloe

産婦人科を経営するキャサリンには、大学で教鞭を執る夫デヴィッドと高校生の一人息子マイケルがいる。誰もがうらやむ大きな家、ハンサムな夫、音楽を愛する息子、と絵に描いたような家庭をも持つ。
しかし、家族それぞれが忙しく話をする時間も無い。息子に恋人がいることに気づかず、夫の誕生日である今日、夫が公演先から帰る飛行機に乗り遅れたその理由さえ想像つかない。サプライズを用意しようと友人達をたくさん招き、誕生日パーティを始めていたのに、当の本人が参加できないなんて…。

いつもと変わらず夫は優しいが、遅れた理由を聞いてもはっきりしない。「この歳になって誕生日といっても嬉しくないよ」とまで言う。日頃のすれ違いの溝を埋めようと数ヶ月もかけて企画したのに、がっかりするキャサリン。思えば夫と長い間触れ合ってさえいない。もう若くはない。夫と出会った頃の輝きは、すでに自分から去ってしまった。

そんな翌朝、キャサリンは着信音が鳴った夫の携帯を思わず盗み見てしまう。そこには「昨日はどうもありがとうございました!」のメッセージと一緒に学生らしい女の子に頬を寄せる夫の姿が。ここでキャサリンの持つ疑惑は確信へと変わる。
 -夫は浮気している
仕事に出ても身が入らない彼女。豪奢なビルにあるガラス張りの仕事部屋。そこから通りを眺めるキャサリンの目には客と一緒にタクシーに乗り込む一人の若い娼婦の姿があった-

本作は2003年のフランス映画『恍惚 -NATHALIE…』のリメイクだ。
夫や息子にはっきりと不満をぶつけず、キャサリンが悶々と一人で悩んでいる様子がいかにもフランス映画のリメイクらしい。そしてそれは、この後登場する娼婦クロエとキャサリンが、大きくゆがんだ渦に飲み込まれていく様子にも現れている。
本作は、一組の夫婦、一つの家庭のお話ではなく、孤独な二人の女性「キャサリンとクロエ」の物語だ。

Chloe

クロエの仕事は、お金と引き替えにホテルのバーで声をかけてくる男性と一時をともにする事。男性の求めているものを察知し、ある意味献身的に接する彼女は、売れっ子であるとも言える。
そんな彼女がたまたまホテルのレストランで見かけた年上の女性。クロエはなぜか気になり、その女性がトイレに立ったとき、後をついて行ってしまった。

「もしかして彼女を見かけたのは今回が初めてではないかもしれない。」
トイレで困ったふりをして、話すきっかけを作る。こんな事は仕事柄お手の物。何も気づかず彼女は相手をしてくれた。気をよくして少し馴れ馴れしくしてしまったクロエ。その女性は少し驚き、目の前から去っていってしまった。もう会うことはないだろうか。いや、仕事場が近い。また会うことは出来るだろう。
 -やはり私は以前からあの女(ひと)を知っている

次に会ったときには、その女(ひと)キャサリンから近づいてきた。
夫が浮気をしているかもしれない。夫を誘惑してどういう態度を見せるか、誘惑に乗ってくるか、乗ってきたとしたらどういう事をしようとしたか、どういう事をしたのかを全て報告して欲しいと言う。
クロエはその仕事を承諾した。

とうとう一線を越えてしまった。
夫の秘密を娼婦に調べさせるなんて。それも誘惑したらどう反応するのかを-。
彼女のことは以前から知っていた。職場の窓から知ってか知らずか、よく眺めていた。
若くて美しい女の子。自分がとうの昔に無くしてしまった物をたくさん持っている。
自分は本当に知りたいのか?知ってどうなるのか?知ってどうするのか?
振り向いて欲しいだけなのに、どんどん遠くなる。
 遠くなって最後には見えなくなってしまう-


こうして夫デヴィッドを挟んで二人の共同作業が始まる。
二人の会う回数は増え、申し訳なさそうに話すクロエの報告に耳を傾け、涙を流すキャサリン。
信頼関係さえ生まれたように見える二人。彼女たちが会っている場所には鏡や大きなガラス窓があり、そちらの世界にも二人が映し出されている。デヴィッドのことを話す二人とは別に、そちらの二人は声なき声で何かを訴えかけているようだ。
クロエの報告に出てくる植物園。上辺だけの薄っぺらい人間関係に比べて、ここは暖かく、根も葉も幹もお互いが寄り添って生きている。生々しい命が萌えている。

Chloe

夫婦はどうなるのか。家族は崩壊してしまうのか-。
夫を深く愛し、家庭が大事なキャサリンの奥底に潜む本心は、映画最後のシーンに大きく映し出される。
それはキャサリンさえ気づいていないのかもしれない。

ではまた

Chloe

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