『灼熱の魂』(2010) - Incendies –

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これは内戦に巻き込まれ、激動の時代を生きた母を探す旅物語であると同時に、未来を背負う“子供たち”の物語で、レバノンに暮らす、暮らしていた、又はレバノンルーツの何人もの子供たちが出てくる。そのほとんどは悲惨な末路を迎えるが、母親ナワルはそれでも子供たちに囁く。 ― 怒りの連鎖を断ち切るために、共にいることが大事だ、と

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■ 灼熱の魂 - Incendies – ■
2010年/カナダ/131分
監督・脚本:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
原作:ワジディ・ムアワッド「焼け焦げるたましい」
製作:リュック・デリ 他
撮影:アンドレ・トゥルパン
音楽:グレゴワール・エッツェル
 
出演:
ルブナ・アザバル(ナワル・マルワン)
メリッサ・デゾルモー=プーラン(ジャンヌ)
マクシム・ゴーデット(シモン)
レミ・ジラール(公証人ジャン・ルベル)
アブデル・ガフール・エラージズ(アブ・タレク)
アレン・アルトマン(レバノンの公証人)
モハメド・マジュド(ワラット・シャムセディン)
ナビル・サワラ(学校の用務員)
バヤ・ベラル(監獄の看護師)

解説:
カナダに在住するレバノン出身の劇作家ワジ・ムアワッドの同名戯曲を「渦」のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が映画化した衝撃のヒューマン・ミステリー。亡くなった母の遺言に従い、父と兄を探す旅に出た双子の姉弟が、やがて自分たちのルーツでもある激しい宗教対立に翻弄され続けた母の数奇にして壮絶な運命と向き合っていく姿を、現在と過去それぞれのエピソードを通して力強い筆致で描き出していく。主演は「愛より強い旅」「パラダイス・ナウ」のルブナ・アザバル。2010年度のアカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品。

 
あらすじ:
中東系カナダ人女性ナワル・マルワンが亡くなり、公証人から遺された双子の姉弟ジャンヌとシモンに遺言が伝えられた。それは、父親と兄を見つけ出し、それぞれに宛てた母からの手紙を渡してほしいというもの。死んだと思い込んでいた父ばかりか、存在すら知らなかった兄がいることに当惑するジャンヌとシモン。それでもジャンヌは遺言に従い、中東にある母の祖国へと旅立つのだったが ―

(allcinema)


重いですね。
自分がいかに中東の事を何も知らないかを思い知らされたです。
 
本作の舞台は現在と過去のレバノン共和国。
地中海に面した、国土面積が四国4県を合わせたよりも狭い小さな国だ。


 
この小さな国は歴史的にキリスト教徒が多く、2つの大戦を経て中東では数少ないキリスト教徒が中心の国家となった。けれども元々国境線が曖昧だった中東一帯で、第一次世界大戦後、事実上の宗主国であったフランスの思惑などもあり国境線が広く取られることに(作品内で出てくる“南部”もこの時含められた)。
この結果、イスラム教徒の数が増えてバランスが崩れ始め、1958年イスラム教徒による内乱が発生。いったん収まるものの、くすぶり続けた宗教間対立は1975年、本格的な内乱となって国全体を巻き込んだ混乱状態となる。(Wiki:レバノン内戦

 
Incendies_15まさしく、この1975年に年頃の娘だった母親ナワル。小さな村に暮らす一家は敬虔なキリスト教徒であり、地域的にも国民性的にも大変厳しいルールがある。だが彼女はそれよりも愛した人、即ちパレスチナからの難民でイスラム教徒の恋人を選び、その上、妊娠まで。
彼女の祖母は産れた子供を孤児院に渡し、孫娘を町に住む叔父に託して大学に通うように言い聞かせる。きちんと学び知識を身につけるんだ。これは約束だよ。
“約束を守らない者は、墓石も墓碑銘も持つ資格は無い ―”
 
Incendies_18-2現代のカナダ。
双子の大学生ジャンヌとシモンは急逝した母親の遺書を公証人からそれぞれ一通渡された。内容はジャンヌは父親を探し、シモンは兄を探してそれぞれ宛の手紙を届けること。全てが終わった後に残る一通の遺書を二人に開けて欲しい、というものだったが、父親は内乱で死んだと聞かされていた上に、兄の存在は今まで知らなかった。
弟シモンは変わり者の母親の言うことなど無視すればいいと言うが、姉のジャンヌは何とも不思議な母の遺言を成し遂げようと決める。
“避けられないものに、抵抗してはならない。抵抗し続ける心には平安は訪れない ―”
 
 
こうしてカナダに暮らすジャンヌは一人レバノンに旅立ち、母親の軌跡を追うことになる。途中から弟シモンと公証人も手伝うことになるが、それは決して簡単ではなく、母の隠されていた人生を知るごとに涙がこぼれる。
一族の名を汚した者として記憶された母ナワル。内戦の中、孤児院に入れられてしまった息子を捜し回るナワル。それは決して簡単ではなく、内乱の戦火が彼女の後を追う。
母親ナワルと娘ジャンヌは35年の時を経て、古い風習を身を持って体験し、内乱を経験する。途中から合流した息子シモンは35年の時を経て、孤児院に入れられた兄がどういった人生を歩んだのかを追体験する。

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この2人の経験は詳しくは書かなかったけれど、30年以上前の話とはいえ、平和な国で暮らす者にとっては、とても信じられない内容。その上、それは過去の話ではなく、今現在もそのまま、あるいは形を変えて残り続いているとしか言いようがない。
この作品を観る者は、姉弟2人と一緒にレバノンへ飛び、母親ナワルの人生を一緒に見ていくことになる。それはレバノンでの経験だけではなく、移住したカナダまで、現在まで追ってくる。まさしく今を生きる私たちにまで。
それでもナワルは語り続けるのだ。自分の時を止めてまで
“怒りの連鎖を断ち切るためには、共にいることこそが大事 ―”
 
人と別れてしまうのは簡単なことだが、それでも一緒にいてこそ、語り合う時間を持つことが出来、やがては理解し合えるようになれる、と。
この事こそがナワルが今を生きる子供たちに遺した言葉だった。