『戦慄の絆』(1988) - Dead Ringers –

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さーて、これは何が結合するのか?と思いながら興味ワクワクで観ていくと、、本作では“結合”がテーマではなく“分離”が主題だった。けれども!それには不安が伴いなかなかうまくいかない。そして最後にはやっぱり“結合”してしまうのだった。ということでやっぱりテーマはクローネンバーグ的“再結合”のお話でした。

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■ 戦慄の絆 - Dead Ringers – ■
1988年/カナダ/116分
監督・脚本・製作:デヴィッド・クローネンバーグ
原作:バリ・ウッド、ジャック・ギースランド
撮影:ピーター・サシツキー
音楽:ハワード・ショア
 
出演:
ジェレミー・アイアンズ(エリオット/ビヴァリー)
ジュヌヴィエーヴ・ビュジョルド(クレア)
ハイディ・フォン・パレスク
バーバラ・ゴードン
シャーリー・ダグラス
スティーヴン・ラック
ジル・ヘネシー
ジャクリーン・ヘネシー

解説:
鬼才デヴィッド・クローネンバーグ監督の描く心理サスペンス。紅い背景に様々な手術道具や人体解剖図が浮かび流れるオープニングなど、彼特有の雰囲気はあるものの、ホラー映画が多い彼の作品群の中では、それ以外の趣向を持った人でも十分に楽しめる、第1級のサイコ・スリラー作品に仕上がっている。主人公の一卵性双生児役を一人二役で演っているジェレミー・アイアンズが逸品。
(allcinema)
 
あらすじ:
幼い頃から人体解剖に興味を持っていた双子の兄弟エリオットとビヴァリーは長じて婦人科医となり開業する。華やかで弁舌巧みなエリオットと研究熱心で確かな腕を持つ内向きのビヴァリーはお互いをサポートしながら医師会で一目置かれる存在に。そんなある日、2人の医院に不妊治療を目的とした女優クレアが訪れる。奥手なビヴァリーが彼女を愛し始めたことから兄弟の均衡が崩壊し始め ―


今までちょっと苦手だったジェレミー・アイアンズ。でも本作の彼は(若いのもあるんだろうけど)髪が綺麗になで付けられ、もしくはファサッと自然、その上、肌が滑らかでとてもセクシーだ。それらが殊更に強調されており、女優クレア役ジュヌヴィエーヴ・ビュジョルドの皺が強調されているのととても対照的。
これはどういった意味があるのか。
 
Dead_Ringers_11双子の兄弟エリオットとビヴァリー、クレアはおそらく40歳前後で同じ年頃だ。
だというのに、兄弟のなんと幼いことか。中でも弟のビヴァリーは思春期そのまま年だけ重ねたようだ。だからいつまでも若々しく、汚れていないように見える。対して女優クレアは厳しいショービズ界で生き抜いてきた。その苦労と尊大さが、いくら隠そうとしても顔の皺や表情から伺える。
 
その彼女が兄弟の婦人科医院を訪れたのは子供が欲しかったから。何人もの医師に診てもらい妊娠不可を宣告され、最後に有名な兄弟のところへ、すがる思いでやって来たのだった。しかし結果は同じ。彼女の子宮は中が3つに分かれているという特異な形状をしており、妊娠は見込めなかった。
この“3つ”というのも、この映画でのキーとなる。2つでも4つでもなく“3つ”。
 
Dead_Ringers_32人前に出て話すことを得意とする兄エリオットと、研究を始めると没頭して何も目に入らなくなる学者肌の弟ビヴァリー。
タイプは違えど兄弟はずっと足りないところを補いながら、お互いを支え合って生きてきた。思えばこの作品に2人の両親は登場しない。幼い時から、お互いをサポートし合って育ってきたことが描写される。お互いが父親であり、母親であり、友人であり、兄弟なのだ。2人で1人であるとも言える。
 
Dead_Ringers_33そんな2人が暮らす都会のアパートは、コンクリートや金属が光る部屋をブルー基調の明かりで照らし出され、とても冷たい印象だ。そしてここでも対比されるのは、クレアの部屋の暖かさ。
木とファブリックがふんだんに使われ、そこをオレンジ色の暖かい光が包んでいる。エリオット自らが「とても居心地がいいぞ」というクレアの部屋を訪れたビヴァリーは、クレア自身はもちろんのこと、この暖かい部屋に魅了されたのだ。そして離れられなくなる。
 
これだけでは、とてもクローネンバーグ作品とは思えないほど“普通”なのだが、実は作品オープニングに既にクローネンバーグ臭が充満している。穏やかな音楽に合わせて、緋色ともいえる深い赤をバックに映し出される人体解剖のイラストや、メスや鉗子を代表する痛々しげな手術器具。特に子宮を切り開き見せられる双子の胎児のイラストは、恐ろしいというよりも神々しい感じが。狭い子宮の中で折り重なるように眠る胎児。この胎児の姿こそが本作のテーマともなっているのだ。
 
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Dead_Ringers_24子宮から生まれ出た双子は別々の生物になった。けれどもビヴァリーは、そして結局はエリオットさえも、どこかで繋がっていることを望み、実際、精神的には繋がっていた。
エリオットと暮らすアパートからクレアの部屋に逃げ込んだかのようなビヴァリーは兄と一部が癒着している恐ろしい夢を見る。それが心の奥底での希望であるはずなのに、その夢を忘れたいがため睡眠薬に溺れるようになるビヴァリー。兄は彼を助けようとするが、彼とシンクロナイズするために自らも服薬するようになる。
 
ラストは悲劇で終幕となる。
2人の姿は産まれる前の姿、子宮の中の胎児そのものだった。
ビヴァリーは子宮が3つに分かれている女性を愛したが、やはり彼女では役不足だったのだ。何より3つに分かれているのでは意味が無い。