『ホドロフスキーのサイコマジック・ストーリー』(2013) - Ritual – Una Storia Psicomagica –

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ある女性が現実(恋人)と癒し(魔女と呼ばれる叔母)の間で揺れ動き、不幸な結末を迎えてしまうお話。原作は例のあの映画『エル・トポ』監督のアレハンドロ・ホドロフスキー。と言ってもまだ観てないんですよね、噂があまりに怖そうで..。でも本作を観る限りではイケルカナ?とも思ったんだけど、どうでしょう


■ホドロフスキーのサイコマジック・ストーリー - Ritual – Una Storia Psicomagica -■

Ritual

2013年/イタリア/95分
監督・脚本・製作:ジュリア・ブラッツァーレ、ルカ・イメシ
原作:アレハンドロ・ホドロフスキー
撮影:ルカ・コアッシン
音楽:ミケーレ・メニーニ

出演:
デジレ・ジョルゲッティ(リア)
イヴァン・フラネク(ヴィクトル)
アンナ・ボナッソ(アガタ)
アレハンドロ・ホドロフスキー(フェルナンド)
コッシモ・シニエリ(グエリエッリ医師)

解説:
「エル・トポ」などのカルト映画の鬼才A・ホドロフスキーが独自に提唱する心理療法、サイコマジックの教えをもとにした異色の幻想ドラマ。
カルト映画作家としてのみならず、禅やシャーマニズムなど、スピリチュアルな領域にも深く傾倒し、異端の教祖としても数多くの信者を持つ、チリ生まれのユニークな鬼才、ホドロフスキー。本作は、彼が独自に提唱する心理療法の教えに触発されて、イタリアの監督コンビが撮り上げた異色作。恋人との関係悪化に悩み苦しむヒロインが、助けを求めて故郷の村に戻り、そこで“サイコマジック”の療法を受けるさまを、現実と幻想、悪夢が混然一体となったシュールなタッチで綴る。ホドロフスキー本人も、劇中に特別出演。

あらすじ:
美術の展覧会を見に行ってヴィクトルと電撃的に出会い、たちまち彼と激しい恋に落ちたリア。しかし、彼女に対するヴィクトルの有無を言わせぬ高圧的な態度は日を追って増すばかりで、2人の関係は次第に暴力的で苦痛に満ちたものとなり、妊娠したリアは中絶を余儀なくされることに。相談した精神分析医の勧めに従って故郷の村に戻ったリアは、そこでおばのアガタが営む、どこか悪魔の儀式めいた独自の精神療法を受けることとなる ―

(WOWOW)

英題:Ritual – A Psychomagic Story


Ritual

主人公のリアはまだ若い。
黒いドレスを身にまとい、髪をビシッとまとめて男性が好みそうな高いヒールの靴を履く。恋人ヴィクトルといる時はいつもそうで、セクシーさをアピールする。高級そうな調度品で纏められた広い自宅に住むヴィクトルにはお似合いだ。そこには生活感は全く感じられない。唯一あるとすれば大きなベッドに。

ヴィクトルは紳士的ではあるが自己中心的でもあり、リアに「愛している」と言いつつ、自分の時間を台無しにするのは赦さない。“大人”の関係を望んでいる。傲慢な彼に辟易する事もあったが、リアもそれはそれで満足していた。

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そんなある日、リアが妊娠する。
ヴィクトルに打ち明ける。思っていたとおり、ヴィクトルは処置を望んだ。そんな彼にがっかりする間もなく、流れに任せてしまったリアは全て終わった後、変わってしまった。大人の女性としての自信は無くなり、ベッドから出る気力も沸かない。悪夢さえ見始め、眠ることも出来なくなった。それでも優しい言葉をかけようとしない恋人ヴィクトルに絶望した。リアは自殺を図る。

ここから物語はガラッと変わって、舞台も冷たい都会の家から田舎の大きな叔母の古い屋敷へと移る。
ローマでは黒いドレスばかりを着ていたリアは、叔母の家では白い木綿のワンピースに裸足で過ごす。リアは叔母に育てられた。父親はおらず母親は病気で入院したままだった。叔母アガタは地元では魔女と呼ばれていた。無料で人々の相談に乗り、的確なアドバイスを与え効果もあった。
アガタはリアに詳しくは尋ねなかったが、リアが心身共に傷付き、疲れ切っていることはすぐに分かった。

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子供の頃のように叔母と暮らし始めたリアは落ち着きを取り戻したかのように見えた。だが、ローマからヴィクトルが訪れ、また精神的に不安定になっていく。夜中に赤ちゃんの泣き声がすると言ってさまよったり、人形を抱いて子守唄を歌う姿を見て、ヴィクトルはローマの病院へ連れて行くと言う。けれどもアガタはリアの治療を他の方法で考えた。自分が最も得意とする方法で。


身体だけの“大人”の関係に見えた2人が、堕胎をきっかけにどんどん変わっていくところが面白い。

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成熟した大人に見えた2人は、実はまだ大人になりきれておらず、ヴィクトルは子供を持つ親になる自信など無い。アガタの家から一人で飲みに出かけ、「子供なんていらない!面倒くさいだけだ!」とクダを巻く様子は、とても子供じみてはいるが、その実、とても正直で、リアに嫌な思いと経験をさせてしまった事で彼も苦しんでいる様子が見て取れる。何より、ローマでは仕事の邪魔を赦さなかった彼が、この田舎までリアを心配して追ってきた。あまり顔には出さないが。その上、リアと同じく不気味な悪夢さえ見てしまう。
傲慢でイヤなヤツだと思っていたから意外だった。

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リアは田舎に戻ってからは、都会で纏っていた“セクシーな大人の女性”を脱ぎ捨てる。すると彼女に纏わり付くように少年と少女が現れる。近所の子供のようにも見えるが、リアにしかその存在は見えない。この子達のお陰で、鬱々としていたリアの気持ちも少しは晴れる。この子達は誰なのだろう。リアの子供の頃の友達か。それとも、まだ幼く汚れを知らないヴィクトルとリア自身なのだろうか。

リアは確かにヴィクトルを愛していた。けれども、何より一番大事だったのはお腹の子供だった。いきなり、いなくなってしまった大事な我が子。その喪失感と罪悪感を癒すために必要なのは精神科医では無い。アガタの単純で簡単な心理療法こそがリアには必要だった。だが、不幸が起きる。
リアとヴィクトルは、もう少し早く本音で話し合い、お互いをさらけ出していれば、このような悲劇は起きなかっただろう。何よりリアに母性を求めていたのはヴィクトルだったし、リアも子供が産まれれば、惜しみなく与えることが出来ただろうに。

監督 アレハンドロ・ホドロフスキー
アレハンドロ・ホドロフスキー
チリ出身の映画監督。ロシア系のラストネームはスペイン語ではホドロスキ [xoðoˈɾoski] と発音する。
1960年代中頃に、パリで作家フェルナンド・アラバールを知り、1967年に彼の原作で処女作『ファンド・アンド・リス』 (FANDO Y LIS) を完成。続く1970年に代表作『エル・トポ』(EL TOPO。モグラの意)を発表する。初興行の際、コロムビア、ユナイトといったメジャー系の配給会社を断られ、音楽プロデューサーのアラン・ダグラスにより「エル・ジン」というスペイン語圏の映画を扱うミニシアター系の深夜上映が決定、1971年1月1日に封切られた。ハリウッド内のアメリカン・ニュー・シネマとほぼ同時期に出現したこのフィルムは絶賛を浴び、のちにカルト映画の開祖にして金字塔との評価を不動のものとする。
続き、『ホーリー・マウンテン』 (THE HOLY MOUNTAIN) を1973年に発表。1973年11月から1975年4月まで続くロングランを達成する。

■主な作品
・ファンドとリス Fando y Lis(1967年、監督・出演)
・エル・トポ El Topo(1969年、監督・脚本・音楽・出演)
・ホーリー・マウンテン The Holy Mountain(1973年、監督・脚本・音楽・出演)
・Tusk(1978年、監督)
・サンタ・サングレ/聖なる血 Santa Sangre(1989年、監督・脚本)
・The Rainbow Thief(1990年、監督)
・リアリティのダンス(英語版) La danza de la realidad(2013年、原作・監督・脚本・製作・出演)

(Wiki:アレハンドロ・ホドロフスキー)

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