『バーバリアン怪奇映画特殊音響効果製作所』(2012) - Berberian Sound Studio –

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出ましたー、意味不明難解系映画。大人しい音響技師がイタリアのスタジオでホラー作品に音を入れる。毎日、毎日、拷問残虐シーンを見つめているせいなのか、奇妙な夢とも思えない現象が起こり始める。ラストはあるイメージで締めくくられるが、ぼーっと見ているだけでは“何じゃこりゃ”となるからご注意を。ずっと凝視していても、そうなりましたけども.. 一応、謎もmomorex流で解いてみました。
 

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■バーバリアン怪奇映画特殊音響効果製作所 – Berberian Sound Studio -■
2012年/イギリス/92分

監督・脚本:ピーター・ストリックランド
製作:キース・グリフィス 他
製作総指揮:ロビン・グッチ 他
撮影:ニック・ノウランド
音楽:ブロードキャスト

出演:
トビー・ジョーンズ(ギルデロイ)

コジモ・ファスコ
アントニオ・マンチーノ
ファトゥマ・モハメド
サルヴァトーレ・リ・カウジ
キアラ・ダンナ
トニア・ソティロプールー

解説:
「レッド・ライト」「キャプテン・アメリカ」のトビー・ジョーンズを主演に迎えておくる、狂気に陥るサウンドエンジニアを描いたイギリス発のサイコスリラー。2013年10月~11月開催の特集上映〈“シッチェス映画祭”ファンタスティック・セレクション〉にて本邦初上映。(allcinema)
 
あらすじ:
イギリス人音響技師のギルデロイはイタリア人監督に雇われて、彼の地にある音響スタジオ“バーバリアン・サウンド・スタジオ”へ赴く。映画の内容が扱ったことの無いホラー作品で最初は戸惑ったものの、仕事を順調に仕上げていく彼。だが毎日残虐シーンの音を入れていくうち、精神的に不安定になっていく ―


Berberian Sound Studio_26イギリス人音響技師ギルデロイ。口数の少ない真面目な彼は、イタリアのホラー監督サンティアーニに呼ばれ、イタリアへと赴く。空港から直接スタジオに入った彼は仕事内容の説明を受けるが、それは仕事としては初めてのホラー作品だった。
監督以下、全員が陽気で横柄なイタリア人という中での仕事に、大人しい彼は最初戸惑ったものの、次第に仕事に没頭していく。
 
登場するのが魔女やゴブリン、犠牲者の大学生などである低予算で作られたこの映画「呪われた乗馬教室」は、そのほとんどが残虐な拷問シーンで出来ており、人を刺したり、頭が割れたりの音を野菜で作っていく。バックには不気味な音楽が終始流れ、女優の悲鳴を聞き続けることになったギルデロイ。
時々、母親から届く手紙が彼の心を慰めたが、次第に奇妙な夢と現実の境が無くなっていく―
 

  

 
話としてはこれだけなんだけど、とにかくくどい(←貶めているわけではありません。誉めてます)。
Berberian Sound Studio_17スイカを叩きつぶし(頭部破壊音)、キャベツをナイフで突き刺し(刺殺音)、カボチャを床に叩き付ける(地面激突音)。魔女やゴブリンの言葉にならない不気味な抑揚のある話し声、犠牲者役大学生のひそひそ声、そして叫び声。
イタリア人の濃い顔、大声、すぐに言い争い、女好き。
とにかく精神的に追い詰められるような色々な物が音と映像になってずっと続く(とは言え、この映画内映画の場面はオープニング以外一切、映らない)。
その中で冷静に機器を扱って仕事をこなすギルデロイのシーンだけが秩序的とも言える。
 
Berberian Sound Studio_30そして合間にはさまる「SILENZIO(録音中。お静かに)」の意味ありげなライト。
“シレンシオ(お静かに)”と言って思い出すのがリンチ監督の『マルホランド・ドライブ』の一場面だから、観ているこちら側はお尻の下がもぞもぞとしてくる。あー、、この映画はそっち系だったのか、、、と。
 
『マルホランド・ドライブ』でアカペラの歌が披露された劇場で何度も繰り返される“シレンシオ”。本作では音を録るスタジオで繰り返される。『マルホランド・ドライブ』でこの言葉によってイメージされたのは「葬儀」だった。では本作では?

 
 
注:ここからはネタバレというより管理人の個人的見解がくどくどと続きます
 
 
 
 
Berberian Sound Studio_13ギルデロイには同居の母親がおり、「早く帰って来てね」という手紙を何度もよこすような事から、かなりマザコン気味ではないかと思われる。おそらく結婚はしておらず、彼が高齢の母親の面倒を見ているのだろう。この優しげで愛があふれるのと同時に、口やかましく自分の全てを管理しようとする母親を。
 
「イタリアから早く戻ってね」と書かれている手紙。
だが、彼の乗ってきたフライト便は、その日の予定に無かったという。では、どうやって彼はイタリアへ?それとも映画製作者側が支払いをしたくないだけなのか?
それでも彼はスタジオで仕事を続ける。
しょっちゅう停電するスタジオで、キャベツを刺し、女優の叫び声を録り、地獄の底から響くような声を録る。
 
Berberian Sound Studio_19以上のことをこう置き換えてみたらどうだろう。
 
キャベツ(刺殺)
叫ぶ女優(断末魔)
混沌としたスタジオから蜘蛛を逃がす(逃亡)
腐っていく野菜(遺体)
ドンドンと扉をたたく音(警察訪問)

 
刺殺音を出したキャベツ。欧米では赤ちゃんはキャベツから生まれる、なんてお伽噺があるけれど、ということはキャベツは「子宮」。それはそのまま「母親」を表す。
経済的に苦しいギルデロイ。うるさく現実を見ていない母親の存在は重荷だったことだろう。中に溜め込む性質の彼は思いあまって母親を殺してしまったのでは。でもその場を逃げていない。彼はイタリアへ行ってはいない。きっと今もその場にいるのだろう。見つけた蜘蛛を何度も外へ逃がしてやるのは、自分がこの場から逃げたいから。
 
Berberian Sound Studio_24警察がいつ来るかと怯える彼に聞こえるベルの音。続く扉をドンドンと叩く音。スタジオでの仕事は続くが彼が眠る場面、食事を摂る場面が無い。眠ったと思えば扉の音で起こされる。その後、彼が見た奇妙な映像で映るのは、悪魔の形相をした自分だった。
 
ずっと恐ろしい音に包まれていたスタジオに、明るくまばゆい光が差し、聖書を朗読する声が聞こえる。ようやく彼は母親の後を追えたのだろうか。
この映画は不況による失業と高齢化社会の作品だったのかな。