『聯合艦隊司令長官 山本五十六 -太平洋戦争70年目の真実-』(2011)

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戦争映画というよりは、「山本五十六」の人生と人となりを追った作品。当時のマスコミが世論をあおり、世論を作るという、現代のマスコミを彷彿とさせるような傲慢さも盛り込まれている。あわせて素直にそれを信じて「今度も日本は勝つだろう」と暢気に構える国民の様子も一部描かれていたりして、なかなか興味深い。
 

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■聯合艦隊司令長官 山本五十六 -太平洋戦争70年目の真実■
2011年/日本/141分
監督:成島 出
脚本:長谷川康夫、飯田健三郎
製作:小滝祥平
撮影:柴主高秀
音楽:岩代太郎

出演:
役所広司(山本五十六)
坂東三津五郎(堀 悌吉)
柄本 明(米内光政)
柳葉敏郎(井上成美)
阿部 寛(山口多聞)
伊武雅刀(永野修身)
香川照之(宗像景清)
玉木 宏(真藤利一)
原田美枝子(山本禮子)
瀬戸朝香(谷口志津)

解説:
1941年に太平洋戦争が開戦する2年前、連合艦隊司令長官になった山本五十六。太平洋戦争開戦のきっかけになった真珠湾攻撃で米軍に大打撃を与え、ミッドウェー海戦でも重要な立場にいたが、実は戦争に反対していたという視点を盛り込んで山本の実像に迫ろうとしたのが本作。山本役の役所、TV「半沢直樹」の香川照之ら日本を代表する実力派キャストの熱演が見ものなドラマ部分に加え、最新CGと従来からある特撮を組み合わせた戦闘場面も迫力満点だ。監督は「ミッドナイト イーグル」の成島出。
 
あらすじ:
1939年夏。陸軍が日独伊の軍事同盟締結を強硬に主張する中、海軍次官の山本五十六は異を唱える。ドイツと米国の戦争は避けられない上、ドイツは米国に勝てないというのが五十六の考えだった。五十六は連合艦隊司令長官に就任するが、日独伊同盟は締結される。国の決定に従って米国に対する真珠湾攻撃を指揮した五十六だったが、この戦争を続けるべきではないという信念と連合艦隊司令長官としての職責の狭間で苦悩を続け ―
(WOWOW)


 

時は1939年。21世紀の現在とは比べものにならないほど世界は混沌としていた。
聯合艦隊司令長官山本五十六_22欧米諸国は東南アジアの国々を植民地とし、アメリカはアメリカ・メキシコ戦争に勝利してカリフォルニア州を獲得。太平洋に目を向け、ハワイ王国併合に続き、米西戦争(アメリカ・スペイン戦争)勝利によりフィリピン、グアム、キューバなどを手に入れた。
 
日本も徐々に手を広げているところで、あちらこちらでアメリカ領と接するようになる。
加えて白人至上主義(黄色人種を含む有色人種差別)の存在。各地の植民地で現地人が奴隷にように働かされる中、日本による人種差別撤廃案のアメリカによる廃案化やカリフォルニア州における排日移民法などで、人種的な対立が生じるようになる。
 
中華民国においては、都市を次々と日本軍に制圧される中、国際世論(欧米世論)を味方につけ、支援を引き出すために地道なプロパガンダ戦術を展開。次第に欧米の世論は長引く一連の日本軍の軍事行動に対し厳しい反応を示すようになり、中国大陸に権益を持つ国々は中国からの撤兵を日本に求めた。(Wiki:太平洋戦争より抜粋)

以上が、この映画の背景のごく一部である。
山本五十六山本五十六は作品の中でも語られるが、1901年(明治34年)、17歳の時に海軍兵学校時に日露戦争に参加。卒業後、いくつかの艦を経て三等巡洋艦(練習艦)「宗谷」に配属。米国駐在、海軍大学校を卒業した後はハーバード大学に留学もしている。
この時、米国の油田や自動車産業、飛行機産業に強い印象を受け、農産物が大量生産され市井で大量消費されていることを目撃する。日本と米国との物量の圧倒的な差を身をもって感じ取ったのだ。
 
政府や陸軍が主導する形で勧められている「日独伊三国同盟」。これを結ぶことは米国との対立をより明確化する、即ち戦争することになることは自明。鉄や石油の輸入を米国に頼っている日本は、戦争が長引けば長引くほど勝機どころか、国そのものが消滅する危機に瀕する。これが米国の国力を目の当たりにした経験のある山本五十六が「日独伊三国同盟」を反対していた理由だ。
しかし、戦勝機運に溢れていた日本は、この道を取ることになる。
 
 
聯合艦隊司令長官山本五十六_23マレー作戦によって開戦の火ぶたを切り、続いて行われた真珠湾攻撃において、ぎりぎりまで米国に日米交渉打ち切りの最後通牒を手渡したのかを気にしていた山本五十六。映画の中でも何度も台詞が出てくるが、前後して彼が語るサムライ論が印象的。

サムライは背後から切りつけることなどしない。眠っている敵を襲う時でさえ、枕を蹴り上げて目を覚まさせる。決して欺し討ちになってはいけない。

 
だが結局、最後通牒は攻撃の1時間後に米国に渡される結果となり、米国参戦のプロパガンダとして使われることになる。真珠湾を徹底的に攻撃して、慌てふためいた米国に即、講和を呼びかけるとした山本の作戦も、日本側大本営の横やりで失敗した。
こうして最後まで開戦に反対していた山本五十六は大東亜戦争の波にもまれていくこととなる。


 
聯合艦隊司令長官山本五十六_15冷静に全体を見据え、判断を下す大将でありながら、甘い物好きで人間味のある山本五十六。開戦反対を主張するも通らず、最前線に立った時には粛々と任務をこなす。
上官であれ、部下であれ、失策や失敗について一切の批判はせず、自らの自浄作用による浄化を待つ姿勢。以下は彼の残した言葉の一つだ。

「やってみせ
 言って聞かせて させてみて
 誉めてやらねば 人は動かじ」

 
今まで名前は知っていたけれど、詳しいことは何も知らなかったので、この作品はとても興味深く観させてもらった。また同時に描かれている新聞社の世論誘導。記者が山本五十六インタビュー時に「世論もそう言ってますよ!」とした時、「世論?世論って誰だね?」と尋ねた彼を見て、最近の「世界?世界とは具体的にどこの国のことかね」と尋ねたある議員を思い出した。
歴史は繰り返すと言うけど、ホントに何も変わっていないんだな。気をつけないと

 

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コメント

コメント一覧 (4件)

  • 具体的な新聞名が出ましたね(^^
    「人は見たいものしか見えない」と言います。
    気をつけていきたいと思います。

  •  結論を言えば、100%正確な「事実」は得られません。何故なら100人いれば100通りの事実解釈があるからです。
     情報を発信する際に必ず「主観」が混入される。情報選択の時点で主観が介在し編集されます。
     そして情報を受信する側も主観でブロックされる情報とキャッチする情報に分かれる。
     
     「事実」に主観混在が避けられない以上、「真実」を知ることは不可能です。が、限りなく「真実」に近づくことは可能です。
     そのためには、情報の偏食をしないに限ります。大雑把にいえば、新聞は朝日と産経の両方に目を通す。物理的に苦しいですがね。

  • あぁー、確かに「坂の上の雲」は良かったですねー。
    時代背景、人物描写、戦闘シーン。どれも丁寧に作られていました。
     
    >「善人」に描いているところがきな臭く
    「山本五十六」の私の知識が無いせいか、どのような描写がより本人に近いものなのか、より時代を描くことができるのかが判断できませんでした。「善人」として描きながら、終盤、ラバウルかどこかで「人員を捨て駒として配置する」と決定した彼を見て、やはりこれは戦争映画なのだと思った次第です。
     
    戦争映画はたくさん作られますが(最近、少ないですね)、現在の各国の関わり合いの中で、なかなか真実を描くのは色んな意味で難しいのかな、とも思います。「真実」が知りたいだけなのですが..

  •  この作品は、マスコミのげんきんな姿勢に焦点をあてたところが新機軸でしたね。香川照之ふんする宗像デスクがよく象徴されていて良い味でした。
     
     ただ、私には山本長官を軍人にしては常軌を逸した「善人」に描いているところがきな臭く感じられて、白けてしまいました。同時代の人物を描いたハリウッド映画「パットン大戦車軍団」(邦題はふざけているが・・)と比較して、構成や人物描写がこなれていない上に、アメリカ側の動向描写もありません。同時期にNHKで放送されていた「坂の上の雲」と比しても見劣りする作品に見えてしまいました。
     
     山本五十六という題材を活かしきれなかった作品です。

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