『野獣死すべし』(1980) - The Beast to Die –

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狂気な松田優作がぎっしり詰まった、舞台劇のような映画。話は単純なものの、合間合間に入るシーンの意味が難しい..。しかし突き抜けた松田優作と共演する鹿賀丈史も負けてはいない。あまり詳しくはないけれど、こんな役をしているとは.. 痩せて幽鬼のような松田優作と、尖った刃物のような鹿賀丈史。最後まで手を握りしめて観てしまったヨ..。

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■野獣死すべし - The Beast to Die -■

1980年/日本/118分
監督:村川 透
脚本:丸山昇一
原作:大藪春彦「野獣死すべし」
製作:角川春樹
製作総指揮:黒澤満 他
撮影:仙元誠三
音楽:たかしまあきひこ
出演:
松田優作(伊達邦彦)

鹿賀丈史(真田徹夫)
小林麻美(華田令子)
根岸季衣(真田の恋人)
室田日出男(柏木)
風間杜夫(乃木)
岩城滉一(結城)
阿藤海(東条)
安部徹(鈴木光明)
泉谷しげる(小林)
安岡力也(カジノの元締め)
佐藤慶(銃の密売人)

解説:
ハードボイルド作家大藪春彦の同名小説を1959年の仲代達矢主演作につづき再映画化。遊戯シリーズのコンビ、村川透監督、松田優作主演。

 
あらすじ:
伊達邦彦は、通信社のカメラマンとして世界各国の戦場を渡り歩き、帰国して退社した今、翻訳の仕事をしている。普段は落ち着いた優雅な日々を送っているが、戦場で目覚めた野獣の血が潜在しており、また、巧みな射撃術、冷徹無比な頭脳の持ち主であった。ある日、大学の同窓会に出席した伊達は、その会場でウェイターをしていた真田に同じ野獣の血を感じ、仲間に入れ、銀行襲撃を企む-
 (allcinema)


ストーリーそのものは割と単純。
元戦場カメラマンだった男は、ヤクザの賭場や銀行から金を盗む裏の顔を持ち、強盗の際には人殺しも厭わない。が、徐々に精神的に崩れていき最後には破滅する、というもの。この主人公・伊達に松田優作が血肉を与え、青白い痩せた身体で、その狂気を表現する。
これが凄い
 
野獣死すべし_20ヤクザの賭場を拳銃を持って襲った時には、その拳銃が指に絡みつき外せないほど興奮し、パニックになっていた(ここでヤクザの安岡力也はとっとと殺されてしまう)。だが大量の札束を目の前にした時に至福の表情を見せつけ、彼が信じるものは「金」だけだと分かる。
次の銀行強盗では冷静に下見をし、一人でやるのは無理と判断。たまたま見つけたチンピラ・真田に自分と同じ狂気を見て取り仲間にするが、邪魔だと判断した真田の恋人を彼自身に殺すよう指示。
この時すでに真田は伊達の狂気の罠に陥っており、恋人への愛よりも勝っているかのように見えたが、恋人殺しが彼を苦しめる。そこに現れる伊達。外は嵐、細長い窓を背景に幽鬼のように立つ伊達のシルエット。

野獣死すべし_11神の啓示を与えるかのように真田に話しかける伊達の身体が、少し傾き折れる。この様子がまるでジブリの『千と千尋の神隠し』だか『もののけ姫』に登場する人以外の何かみたい。
この少しいびつに折れる伊達のしぐさは、精神的に真っ直ぐでは無い、どこか歪んでいる様子がよく表現されている。細長い松田優作だからこそですねー。
 
小林麻美を銃で撃つシーンも冷たい感じが出ててよかったが、やはり次の見所は東北に向かう列車内の場面でしょう。
野獣死すべし_17追いかけてきた刑事・柏木がラジオから流れるニュースを聞いて、残忍な銀行強盗犯は伊達だと確信する。銃を伊達に向けて構えた柏木が「お前を撃つ心の準備が出来たよ」みたいな台詞を言ったとたん、後ろからひっそりと近付いた真田に頭に銃口を向けられ、伊達は柏木の銃を奪う。ここからの緊張レベルは、今まで見たことがないほど高い。

銃口を真っ直ぐ向け「リップ・ヴァン・ウィンクルの話って知ってます?」と言う伊達の怖いこと。この「リップ・ヴァン・ウィンクル」の話は、ただのお伽噺(西洋版浦島太郎)なのに、話の合間に1発だけ弾を込めたリボルバーの引き金を引くものだから、柏木じゃなくても汗だらだらに。もうここで発射されるだろう、と思わせてまだ出ない。延々と続くロシアンルーレット。
 
野獣死すべし_18東大を卒業し、カメラマンとして活躍していた伊達がどうしてこのような男になったのか。
次に続く地下トンネルのような場所。長回しのカメラの前、暗いトンネル内でスポットライトのような光が伊達を照らす。その光の中で狂気に満たされた彼が独白する内容は、実にリアルで現実的でさえあるものだった。彼の地で野獣を目覚めさせた男は、それを抑えることが出来ないまま、今、目の前にいるもう一人の野獣を倒す。野獣の王は一人であるべきだからだ。

 
そしてラスト。
ここまでこの野獣の男の行動を追って分かったつもりでいたのに、、ここでぅへっ?となりましたよ。コンサートホールで眠ってしまった伊達が目を覚ました時、てっきり周りには警官や機動隊がびっしりと立ち並び銃を向けているのかと思ったが、それは違っていた。誰もいない静かなホールで腕を上げ、「あッ」と大きな声をあげる行動は、ホントはクラシックなんか趣味じゃ無い、退屈なんだよ、と叫んでいるようにも聞こえた。

野獣死すべし_22が、この後、ホールの玄関前で狙撃されたように倒れ込む伊達。遠くに柏木の姿も見えた。
例え凶悪犯だとしても銃も持たない男を警察がいきなり狙撃するのは、日本ではあり得ないよね?じゃあ誰に狙撃されたのか?それとも狙撃されたように感じたのか。
東北行きの列車内で伊達は戦場に戻ったかのように錯乱していた。戦場やジャングルに住む野獣はいつ、誰に撃たれてもおかしくない、ということなのだろうか。
 
彼の地から日本に戻ったものの、現実に戻ることが出来なかった伊達。これは浦島太郎のように時を超え、世界が変わってしまったのではなく、自分が変わって戻って来たからだ。忍び足で近付き、いきなり後ろから襲う野獣。この「静と動」を、松田優作は「正と狂」に昇華させた。そしてその死に様を見せつける。