『マルホランド・ドライブ』(2001) - Mulholland Drive –

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リンチ監督作6本目のレビューは『マルホランド・ドライブ』。
謎解きはブログ界でもさんざんされているでしょうから、今回のレビューは【ネタバレ】ありきで進めます。よって未見の方は鑑賞後にまた戻ってきてくださいねー。

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■マルホランド・ドライブ – Mulholland Drive -■
2001年/アメリカ・フランス/145分
監督・脚本:デヴィッド・リンチ
製作:ニール・エデルスタイン 他
製作総指揮:ピエール・エデルマン、デヴィッド・リンチ
撮影:ピーター・デミング
音楽:アンジェロ・バダラメンティ
出演:
ナオミ・ワッツ(ベティ/ダイアン)
ミローラ・エレナ・ハリング(リタ/カミーラ)
アン・ミラー(ココ)
ジャスティン・セロー(アダム・ケシャー)
ダン・ヘダヤ(ヴィンチェンゾ・カスティリアーニ)
メリッサ・クライダー(ウィンキーズのウェイトレス)
レベッカ・デル・リオ(レベッカ・デル・リオ)
リー・グラント(ルイーズ)

 

解説:
ロサンゼルス北部の山を横断する実在の道“マルホランド・ドライブ”。眼下にはハリウッドを一望できるこの曲がりくねった道路をモチーフに、「ツイン・ピークス」のデヴィッド・リンチ監督が描く妖しく危険なミステリー。当初、「ツイン・ピークス」同様TVシリーズとして企画されたが、その過激さから局側が尻込みし、新しく劇場版として甦った。 (allconema)
 
あらすじ:
真夜中のマルホランド・ドライブで起きた車の衝突事故でただ一人助かった黒髪の女。彼女は負傷しながらもなんとかハリウッドの街まで降りていき、有名女優の留守宅に潜り込む。直後、訪れた女優の姪ベティと鉢合わせて名前を聞かれ、自分が記憶喪失になっていることに気付くが-


この作品は前半(といっても2/3が使われている)が主人公の妄想もしくは夢、後半が現実であるとされています。今回はまず分かりやすい「現実」世界から話を始めようと思います。
 
 
 
Mulholland Drive_51ダイアン
田舎から女優を夢見てハリウッドに出てきた女の子。田舎のジルバダンス大会で優勝して、自分には女優の素質があると思ってしまった娘。オーディションをさんざん受けるが、現実はそう甘くない。落ち込む日々にどんどんやさぐれていく、天真爛漫だった彼女。
そんなある日に出会った同じ女優志願のカミーラ。自分とは違う黒髪の肉感的な彼女にたちまち恋をし、2人は恋人に。だが違っていたのは見た目だけでは無かった。彼女はその自由奔放な魅力をふんだんに使って主演女優の役を射止め始め、どんどんのし上がっていく。彼女の紹介で小さな役をおこぼれ的にもらっていたダイアンだったが、彼女に対する愛情が徐々にライバル心を超えた嫉妬心に変わり始めた頃、カミーラと出演作品監督の婚約発表が。
ダイアンの愛情と嫉妬心は憎しみの心へと変わった―
 
さて、こんな娘がいたとします。
この娘の欲しいモノは2つ。成功した女優の座と恋人カミーラ。この娘の手からは今、どちらも泡と消えていきそうに。借りている小さな部屋に一人でいる時。ソファに寝転んで一人で天井を見つめている時。そんな時、彼女の目は暗い天井ではなく、明るく光るまばゆいばかりの未来を想像し見ていたはず。
 

Mulholland Drive_12田舎から出てきて初めてロサンゼルスの地を踏んだとき。周りの人が皆、自分を祝福してくれているように思えるほど、気分は高揚し、輝くばかりの未来しか見えなかった。
荷物を片付けてすぐに受けたオーディションは大成功。関係者は大絶賛。
ひょんなことから出会った黒髪の女性カミーラ。彼女は記憶を無くし、怯えている子犬のよう。自分が守らなければ一体誰が?そして恋に落ちる2人。彼女は自分がいなければ生きていけないほど自分を愛し、頼っている。
大女優の叔母を持ち、美しく聡明で心優しい娘、それが自分。
女優の道も、恋人との関係も全てが順風満帆。田舎を出る時に想像していた通りに物事が進んでいく。この世は私のためにあるのだ、と。

 
このような妄想、というより想像することは大なり小なり誰でも経験のあること。
なりたい職業で大成功を収めた自分。片思いの人とうまく成就できたシーン。広い庭の大きな家に住んでいる私..
ダイアンにもある程度、現実を理解できていただろうが、恋人からの別れの宣告と映画監督との婚約発表という現実を突きつけられ、プツンと最後の糸が切れてしまう。
Mulholland Drive_52勢いで顔見知りのチンピラに彼女の殺害を頼んだダイアン。費用は鞄に詰めた叔母からの遺産である現金。依頼を迷っている時も、依頼中も、依頼後も、愛情と憎悪に揺れて振り回されるダイアンには正常心のかけらも残っていない。

そしてある朝、テーブルの上に青い鍵が。それは仕事を終えた後に置くとチンピラが言っていた鍵だった。
ここでようやく少し戻った正常心を、今度は恐怖と罪悪感、カミーラをまだ愛している気持ちが攻撃する。家の周りをうろつく刑事が、「正義、博愛」といった言葉を表す小さな老夫婦が、彼女を追い詰め、そして彼女は引き出しにあった拳銃を手に取り、自らを罰する。あんなに愛していた自分を、と同時に大嫌いだった自分を―


 
Mulholland Drive_29以上が後半の「現実」部分。
前半はこの現実でダイアンが知り合った人、見かけた人や物が様々な形で現れるダイアンの成功した姿が描かれる。
ダイアンはベティという名で、皆がベティに好意を寄せ優しく応援し、か弱くすがる恋人リタもいる。
「正義、博愛」の化身である老夫婦とは長旅を仲良く共有し、ロスの叔母は大物女優。管理人のココは自分を親切に面倒みてくれて、オーディションを受けるカミーラという女優が役を掴むのはバックにマフィアが絡んでいるから。監督のアダムは自分に意味深の視線を投げかけ、実直で堅物のカウボーイは彼を叱責する。アダムを妻の浮気相手(要するに現実世界の自分=ダイアン)に殴らせるというおまけ付。
 
Mulholland Drive_31そして青い箱と鍵。
これはこの2つの物語をつなぐキーだ。
「青い箱」とは自分の負の心。「青い鍵」とはそれを解き放つ物の象徴であり、現実世界の「青い鍵」と同じ効力を持つ。この青い箱を持っていたのは現実世界でダイナー裏に住むホームレスだったが、このホームレスとは“その角を曲がった先に何か怖い物が隠れているかもしれない”といった恐怖感の表れではないだろうか。ホームレスは現実世界では普通の弱者に見えたが、夢の世界では悪魔のように笑っていた。
この青い箱を開けようとした時、「善」のベティは消え失せ、開けた時には現実世界で殺されたリタ(カミーラ)も消えた。
 
Mulholland Drive_59泣き女が素敵な歌を披露してくれた深夜の劇場。
何度も何度も「シレンシオ(お静かに)」と繰り返される言葉と泣き女。これでイメージしたのは「葬儀」の他ならない。
この劇場に掛けられていた赤いドレープカーテンは、『ツインピークス』で死んだローラが現れる部屋にも掛かっていた。この劇場で泣き女の歌を聴いた2人の行く末はもうこの時、既に決まっていたのだ。
劇場はそんな2人を「お静かに」という言葉と「はかない愛の歌」で見送っている。


 
 
離れていく恋人を殺して自殺した悲しい娘の物語。
さぁ、どうです?難しくないでしょう?ぜひ、どっぷりリンチワールドにはまってくださいね。
ではまた
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