『エクスペリメント』(2010) - The Experiment –

ドイツ映画『es[エス]』(2001/原題:Das Experiment)のアメリカリメイク。
1971年にアメリカのスタンフォード大学で実際に行われた心理学実験を元に製作。
「Experiment」とはそのまま「実験」の意。

The Experiment_2010
■エクスペリメント -The Experiment-■
2010年/アメリカ/97分
監督:ポール・T・シュアリング
脚本:ポール・T・シュアリング他
原作:マリオ・ジョルダーノ
音楽:グレーム・レヴェル
撮影:アメリア・ヴィンセント
製作:マーティ・アデルスタイン他
出演:
エイドリアン・ブロディ(トラヴィス)
フォレスト・ウィテカー(バリス)
キャム・ギガンデット(チェイス)
クリフトン・コリンズ・Jr(ニックス)
イーサン・コーン(ベンジー)
マギー・グレイス(ベイ)

■あらすじ
老人ホームで介護人のパートをしていたトラヴィスは予算削減で一時解雇されてしまった。反戦デモに参加するようなスタイルのトラヴィスだが今後の生活の見通しが立たなくなる。そんな時、「日当1000ドル14日間の心理学実験参加者募集」の広告記事を新聞に見つけ応募してみることにする。“きわめて安全な環境で行なわれ、危険はない。ただし、人権を侵害する可能性がある”と説明されるが-
 


 
映画『es[エス]』でそんな事があったのか、と多くの人に知らしめた「スタンフォード監獄実験」。
その内容は

1971年8月14日から1971年8月20日まで、アメリカ・スタンフォード大学心理学部で、心理学者フィリップ・ジンバルドー (Philip Zimbardo) の指導の下に、刑務所を舞台にして、普通の人が特殊な肩書きや地位を与えられると、その役割に合わせて行動してしまう事を証明しようとした実験が行われた。模型の刑務所(実験監獄)はスタンフォード大学地下実験室を改造したもので、実験期間は2週間の予定だった。
新聞広告などで集めた普通の大学生などの70人から選ばれた被験者21人の内、11人を看守役に、10人を受刑者役にグループ分けし、それぞれの役割を実際の刑務所に近い設備を作って演じさせた。その結果、時間が経つに連れ、看守役の被験者はより看守らしく、受刑者役の被験者はより受刑者らしい行動をとるようになるという事が証明された。
 Wikiより

 
禁止されていた看守役から囚人役への暴力行為がひどくなり、あまりにも危険な状態になったため途中で強制的に中止されたこの実験。
es[エス]』ではその実験内容がだいたい忠実に再現されている。
対してこの『エクスペリメント』では実験については全体的にやんわりと表現するに止め、個々人の本来持っている特性と普段の生活、実験への参加動機、実験中の行動、そしてどう変わっていくかが詳細に語られている。
es[エス]』がこの非人道的実験を告発する形であったのに対し、本作は現代において人間の善悪に対する考えとその行動を問う作品となっている。

 
 icon-film  ポール・T・シュアリング 監督・脚本
大ヒット海外ドラマ「プリズン・ブレイク」企画者・製作総指揮として広く知られ、筆頭脚本家でもある。2006年、ゴールデングローブ賞の作品賞(ドラマ部門)にノミネート
 
   エイドリアン・ブロディ(トラヴィス)
The Experiment_01実験参加者選考テストで「道徳的判断の基準は?」と問われて「自分だ」とはっきり答える事が出来るトラヴィス。
決して傲慢ではなく自信に満ち、誠実に仕事をしていたトラヴィスが、実験で屈辱を受けて人権を踏みにじられ、どう変わっていくのかを見事に演じたエイドリアン・ブロディ
29歳という史上最年少でアカデミー主演男優賞を受けた『戦場のピアニスト』(2002)‘シュピルマン’を彷彿とさせた。2010年は『プレデターズ』も公開されている。
本作中、囚人になってからそのうち鼻の骨を折るのではないかとヒヤヒヤして観ていたのは内緒です。

 
   フォレスト・ウィテカー(バリス)
The Experiment_03トラヴィスとは対照的に「絶対的な善悪の判断基準は?」との問いに「神を信じていれば自ずと判断できる。でしょ・・?」と答えたバリス。その他にも参加テスト時にボーイスカウトやドリルチーム(スポーツなどで、自軍チームの応援のために厳しく、正確に訓練された行進や体操などの模範演技を見せるチーム)の経験を語ったり、敬虔な教会信徒であることをアピールする。
そこには真面目で堅物なようでいて、実は自分の考えで行動できない自己不在が見て取れる。そんな彼が看守役になってどう行動するのか見てみたいのはこの研究者だけではないだろう。
フォレスト・ウィテカーはこの複雑な役を彼らしく演じた。
自分は『ラストキング・オブ・スコットランド』(2006)‘アミン’より最近観た『狼たちの報酬』(2007)のおどおどした銀行員の方がいいと思える。『フォーン・ブース』(2002)‘レイミー警部’も良かったな。それだけ嫌なやつ役が上手いということだけども。

 
   キャム・ギガンデット(チェイス)
The Experiment_05軽薄な男チェイス。
自身のモットーは「女を食ってハッパを吸って笑顔で暮らせ」。犯罪すれすれのアメリカ下層階級代表を体現。
どっかで最近見たこの人、と思って調べてみてびっくり。『バーレスク』(2010)の‘ジャック’(主人公アリの恋人になるウェイター)だった。人はこうも変わるものなのか?
主な出演作にドラマ『The O.C.』、『トワイライト〜初恋〜』(2008)、『アンボーン』(2009)、『ザ・ルームメイト』(2011)などがある。29才。これからです。

   クリフトン・コリンズ・Jr(ニックス)
The Experiment_06迫力満点、強面ニックス。
真っ当なお金を稼ぎたくて犯罪歴を隠し実験参加。刑務所に慣れているのか看守のやり過ごし方に詳しい。
睨みをいかした役柄が多いクリフトン・コリンズ・Jr。とりわけ『カポーティ』(2005)での実在の犯罪者‘ペリー・スミス’役が印象的。1970年ロサンゼルス生まれ。

   イーサン・コーン(ベンジー)
The Experiment_09コミックではなくグラフィック・ノベルの作家だと主張するベンジー。いつか売れて有名になることを夢に持っているようだが現実は厳しそうだ。
あくの強い実験被験者の中で「ごく普通の人」を受け持つ係のようだ。

 
 
この作品でもう一つ重要な登場人物に「監視カメラ」がある。
カメラの向こうには実験を企画した心理学者がいるんだけども、被験者によって捉え方は様々だ。

The Experiment_07

 
 icon-arrow-right トラヴィス

あちこちで常に自分を監視しているカメラは、まるで政府などの体制側の象徴のようでいまいましく見上げることが多い。が、いざという時には通信手段として利用しようとするなど臨機応変に対処できるものである。

  バリス

行く先々で存在が気になって仕方がない。それは自分の頭を上から押さえつけて、もがいてもふりほどくことが出来ないものの象徴だ。それに支配され、それの僕になり、それなくては生きていけないほどだ。彼にとっての「それ」とはいったい何でしょう?

  チェイス

一切気にしない。
あ、それでも一つの事だけにおいては人目を憚るだけの恥じらいはあるらしい。

 
社会の縮図を描いたようなこの作品。監督からのメッセージは全てトラヴィスに語らせているのでとても分かりやすい。が、登場人物とそれぞれの取った行動を考えたとき、いったい自分ならどの人に似ていてどう行動するだろうか、などと思い始めると寝られなくなること確実です。
いやだなぁ、もうこういうの
 
ではまた