『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(2012) - Life of Pi –

動物映画は苦手。動物の出てくるサーカスも実はあまり好きじゃない。この作品もきっと最後はトラが死ぬんでしょ、ヤダヤダと思ってた。・・・違ってた・・・。大海原で大自然の一欠片でしかない存在になってしまった少年の、決してあきらめない、生き残るんだ、という決意。「運命」ではなく「人生」を選んだ彼の、決して大げさではない自然で懸命な努力を見て欲しい。そしてトラの存在が彼に与えた影響も。
 
Life_of_Pi_2012
■ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日 – Life of Pi -■

2012年/アメリカ/127分
監督:アン・リー
脚本:デヴィッド・マギー
原作:ヤン・マーテル「パイの物語」
製作:アン・リー、ギル・ネッター 他
制作総指揮:ディーン・ジョーガリス
撮影:クラウディオ・ミランダ
音楽:マイケル・ダナ
出演:
スラージ・シャルマ(パイ・パテル)
イルファーン・カーン(パイ・パテル/成人)
アディル・フセイン(パイの父)
タッブー(パイの母)
シュラヴァンティ・サイナット(アーナンディ)
レイフ・スポール(カナダ人小説家)
ジェラール・ドパルデュー(貨物船コック)
王柏傑(仏教徒の船員)

解説:
「ブロークバック・マウンテン」「ラスト、コーション」の名匠アン・リー監督が、ブッカー賞に輝いたヤン・マーテルの世界的ベストセラー小説を3Dで実写映画化した衝撃と感動のサバイバル・アドベンチャー・ドラマ。大海原で嵐に巻き込まれ遭難し、小さな救命ボートに獰猛なトラと乗り合わせることになった一人の少年が、その後いかにして生き延びることが出来たのか、その想像を絶する漂流生活の行方を、美しくも幻想的な3D映像で描き出していく。主演は新人スラージ・シャルマ、共演にイルファン・カーン、レイフ・スポール、ジェラール・ドパルデュー。 (allcinema)
 
あらすじ:
小説のネタを探していたカナダ人作家が偶然出会ったインド人パイ・パテル。動物園を営む厳しい父親に育てられた幼少期から始まった彼の話は、カナダ移住が決まって家族で乗り込んだ貨物船が嵐で沈没してしまい、小さな救命ボートに数匹の動物たちと太平洋を漂流せざるを得なくなった経緯とその後に及んだ-

 


なんなんだろう、この感じ。
どう猛なトラと精神的に結ばれた感動作ではない。漂流の末、助かった少年のお涙頂戴作でもない。かといって、淡々と描かれた日記物でもない。
 
Life_of_Pi_2012主人公はパイ少年。
本名はピシンだが、その意味が(おそらく)小便のようなものだったので、級友からしょっちゅうからかわれていた。それがイヤで自分で「パイ」という愛称を触れ込み、周知させて平穏な毎日を勝ち取った少年パイ。「神様ってなんだろう?」と素朴に疑問を持つ少年。年頃になり恋人が出来たが、両親がカナダに移住するというので泣く泣く船に乗り込んだ少年。
パイ少年の成長を描くこのあたりまでの映像は、まるでナショジオの番組のようで色彩的にも非常に美しい。穢れのない少年の目を通して見る美しいインドの風景。そこには人々の生活があった。
 
動物たちと一緒に楽園のような場所で生活していた彼が、一転、荒海に一人放り込まれる。
両親や兄は動物園の動物たちと一緒に沈んでしまった。救命ボートには生き残った数匹の動物と自分だけ。上から見下ろすと海の中には沈みゆく船が大きなクラゲのように光っている。
生きがい」を大事にしろと父親に教えられたが、ここにはそんなものは無い。
 
Life_of_Pi_2012一緒に助かった動物は弱い物から順にいなくなり、最後にはトラが残った。そしてまたパイは思い出した。「決して諦めないこと」と言った父親の顔を。
こうしてパイは、大海原に浮かぶ点のようなボートで、トラと戦いながら漂流を生き抜いていく。
しかし「生き抜く」ことが目標では無い。それは一日を生きることの積み重ね。食糧と水を確保し、トラの餌にならないように気をつける。それは過酷だが、パイの持つ全ての知恵を総動員して「トラに喰われないこと」が目標となった。そしてボートに備えてあったノートと鉛筆で日々の記録をとることも。
これらがパイの「生きがい」となったのだ。
 
 
Life_of_Pi_2012どんなに目をこらしても何も見えない海の上。この世には自分と一匹のトラしかいないような錯覚に陥る。
しかしよく見ると、空に浮かぶ雲は刻々と形を変え、時たま雨を降らせる。そして波の無い鏡のような海面にその姿を映したときには、まるでボートは宇宙に浮かんでいるようだ。
そして足下。このとても不確かな足下には大いなる海が横たわり、多くの魚が泳いでいる。夜には大量のクラゲが光りを投げかける。クジラやイルカはパイとトラなど見えないかのように悠々と泳ぎ、その姿をさらけ出す。
パイとトラはこれら大自然の一部となった。缶詰の飲物やクッキーが無くなった後は、自然の恩恵を受けて生き延びる。
そしてある奇妙な島に漂着した。


 
Life_of_Pi_2012カナダ人の作家が既に中年になっているパイにこの冒険譚を聞き始めるところから始まる本作。
この奇妙な島に漂着したところから、奇想天外な物語となり作家も少し信じがたい顔をしている。しかしよく考えて欲しい。どこまでも広がる海の上に自分とトラだけ。食べて飲むことだけで毎日を送れるはずがない。人間は考える動物なのだ。「考える」には「想像する」も含まれる。そうした世界に身をゆだね、ただの海面と空以外の「何か」を見て体験しなくては、あまりの退屈さにやっていけなくなるだろう。
そして生きるために、食べるために何かを犠牲にすることも必要になる。
この「奇妙な島」はパイが一番やりたくなかったこと、どうしても忘れてしまいたいことの象徴ではないかと思う。
(※この島と最後についてはネタバレになるので一番下に書きます。)
 
そして人間は「話す動物」なのだ。せめて誰かに話しかけていなければ頭が爆発しそうになるだろう。トラは何も語らない。気持ちが通じ合うまでには至っていない。パイは子供の頃から色々な宗教の神に親しんできた。けれども「神」とは何かを会得するまでではなかった。しかしこの大海原で、家族の命を奪い、自分を過酷な目にあわせているのは、何者かの力によるところだと信じたい。そしてパイは自分の神を見つけ、創造し、話しかける。怒りをぶつける。「どうしてこんな目にあわせるのか?」と。神は何も答えないが。
 
パイは227日の漂流の末、ようやく助けられる。
話を聞いていたカナダ人作家は、とても面白い話だが、この物語が本当にあったことなのかと疑っている。本当なのだろうか?それは最後に分かる。

 

 

 
 
 
 
ミーアキャットの住む死の島とは
ほとんど動けなくなったやせ細ったトラ。この時、パイは初めてトラのそばに寄り、その頭を膝の上にのせて撫でてやる。初めての触れあい。その後、島に漂着する。肉食樹が絡み合って出来た死の島。この島は遠目に見ると人が横たわっているように見える。この島はパイ自身だと感じた。
トラはこの時死んでしまっていたのではないだろうか。そして泣きながらパイは食糧にし生き延びた。メキシコに着いた時に見たトラの幻影は一緒に助かりたかった気持ちの表れだろう。どうしてトラは振り向かなかったのか。それは衰弱死したとはいえトラを食べたパイは、トラがどういう表情で自分を見るかが想像できなかったため。忘れてしまいたい記憶なので、形を変えて「死の島」にした。
この部分以外は真実だと思う。コックや船員の話は調査員が納得できそうなものに作り替えただけ、と。