『クラウド アトラス』(2012) - Cloud Atlas –

Cloud Atlas_32s
人生の起承転結-。平凡な毎日を送っているようで、実は誰もが経験することになる人生の様々な出来事。人との出会い。危機的状況との戦い。真実を知り、そして次の展開へ。それらは全て次の扉を開ける勇気を持つ者だけに訪れる人生の転機。生まれ変わるたびに何度も繰り返されるこれらの事柄を一緒に経験することになる人が、いつも同じ運命の人であったなら・・?
 Cloud Atlas_2012
■クラウド アトラス – Cloud Atlas -■
2012年/アメリカ/172分

監督・脚本:ラナ・ウォシャウスキー、トム・ティクヴァ、アンディ・ウォシャウスキー
原作:デイヴィッド・ミッチェル「クラウド・アトラス」
製作:グラント・ヒル、ステファン・アーント 他
製作総指揮:フィリップ・リー、ウーヴェ・ショット 他
撮影:ジョン・トール、フランク・グリーベ
音楽:トム・ティクヴァ、ジョニー・クリメック 他
出演:
トム・ハンクス(ザックリー)
ハル・ベリー(ルイサ・レイ)
ジム・ブロードベント(ティモシー・カベンディッシュ)
ヒューゴ・ウィーヴィング(オールド・ジョージー)
ジム・スタージェス(アダム・ユーイング)
ペ・ドゥナ(ソンミ451)
ベン・ウィショー(ロバート・フロビシャー)
ジェームズ・ダーシー(ルーファス・シックススミス)
キース・デイヴィッド(ジョー・ネピア)
デヴィッド・ジャーシー(オトゥア)
スーザン・サランドン(アベス)
ヒュー・グラント(デニー・カベンディッシュ)
 

解説:
それぞれ時代も場所も違う6つのエピソードが入れ子状に関連しながら大きな物語を構成していくデイヴィッド・ミッチェルの同名小説を、「マトリックス」のウォシャウスキー姉弟と「パフューム ある人殺しの物語」のトム・ティクヴァ監督が、原作同様、エピソードごとにジャンルの違う語りで映画化した一大映像叙事詩。主演のトム・ハンクスはじめ、ハル・ベリー、ジム・ブロードベント、ペ・ドゥナら豪華スターたちが輪廻転生を象徴するように、各時代の登場人物を人種や性別を超えて演じ分ける大胆な配役も話題に。
 
あらすじ:
1849年、南太平洋。青年ユーイングは、妻の父から奴隷売買を託され、船での航海に出るが…。1936年、スコットランド。ユーイングの航海日誌を読む若き作曲家フロビシャー。父に勘当され、天才作曲家のもとで曲づくりに悪戦苦闘する。その曲は、のちに幻の名曲と呼ばれる『クラウド アトラス六重奏』だった…。1973年、サンフランシスコ。巨大企業の汚職を追及する女性ジャーナリスト、ルイサは、会社が放った殺し屋に命を狙われるが…。2012年、イングランド。著書を酷評した評論家を殺害した作家ホギンズ。彼の自伝は大ヒットし、出版元の編集者は大儲けとなるが…。2144年、ネオ・ソウル。そこは遺伝子操作によって複製種が作られ、人間のために消費される社会。複製種の少女ソンミ451は自我に目覚め、反乱を企てるが…。そして遥か未来、文明がすっかり崩壊した地球。ある羊飼いの男のもとを、進化した人間コミュニティからやって来た一人の女が訪ねるが…。6つのエピソードは並行して描かれ、やがて怒濤のクライマックスへと突き進んでいく- 
(allcinema)

Cloud Atlas:雲図帳(うんずちょう)/気象学における雲の分類(雲形分類)


時代も場所も違う「6つの物語の同時進行と交差」ということだったので、さぞややこしい映画に違いないと思っていた本作。3時間近くもある大作ということもあり、かなり身構えて観始めたが-。
案外すーっと物語が入ってくる。
・時代設定が違う。
・ストーリーが全く違う。
・話題にもなった通り同じ役者さんが違う時代の違う人物を演じているが、見た目が大幅に違っているうえ、演じ手が上手で戸惑うことはない。
などなどの理由で、短編を6つ観たような贅沢な作りであるが、最後トム・ハンクス演じる人がようやく掴むことが出来た自分に対する「自信」「誇り」というところに集約されていく。トム・ハンクスがちょい役でしかないストーリーもあるが、基本、この人を追っていけば分かりやすいと思われる。
では、各ストーリーのあらすじと感じたことを時代に沿って軽く。勝手にタイトル付けてます。 
 

奴隷商人 1849年

Cloud Atlas_26妻の父から奴隷輸入の契約を頼まれた弁護士アダム・ユーイング。契約も無事まとまり船でアメリカへの帰路につくが、病に倒れてしまう。乗り合わせた医師ドクター・ヘンリー・グースにより治療を受けるも、その甲斐なくますます酷い状態に。
 
タイトルは大げさに「奴隷商人」としたけれど、死に瀕した主人公が自分にとって誰が一番大事で、世界にとって何が一番必要なことかを知る物語。「奴隷」とは所有者による完全な支配に服従させられる人のことであるが、それは必ずしも当時のアフリカ人だけではないことに主人公は気がつく。
この話でのトム・ハンクスは医者の鑑として登場するが-
本当のサブタイトル「波乱に満ちた航海の物語」
 

愛を奏でるもの 1931年

Cloud Atlas_07ユーイングの航海日記を愛読している音楽家ロバート・フロビシャーは夢である大作曲家になるため、愛する人としばし別れて有名な作曲家のもとに弟子入りする。しかし理想と現実に翻弄され、自殺を図ろうとする。
 
この彼がこの時作曲したのが後に幻の曲となる交響曲「クラウド・アトラス六重奏」。そんな彼を陰になり日向になりずっと支えていたのは恋人ルーファス・シックススミス。シックススミスの深く純粋な愛は、この後何十年にも渡り、2人の愛を紡いでいくという美しい物語だ。そんな中に挟まれるお皿などの陶器を一斉に割っていくシーンは対照的で面白い。創っては壊す、創っては壊す。人の人生ってそういうものでしょうか。
この話でのトム・ハンクスは胡散臭い宿屋の主人。
本当のサブタイトル「幻の名曲の誕生秘話」
 

愛が遺したもの 1973年

Cloud Atlas_15ジャーナリストのルイサ・レイは偶然知り合った物理学者シックススミスから原発事故と石油企業の利権に絡む告発文書を受け取ろうとしていた。しかし利権を守ろうとする者が2人に殺し屋を差し向ける。
 
内容がサスペンス風になり、だんだんと現代に近付いてきました。これで1本映画が作れるほどの内容だけれども、さらっと短編になっている。
この物理学者シックススミスとは、あの音楽家の恋人シックススミスで、彼とやり取りした大量の恋文をまだ大事に抱えている。本当に愛情深い手紙という物は、他人が読んでも美しくまるで詩か小説のよう(読んだことはありません、が、、)。ルイサが愛おしく何度も読んでいる様子が微笑ましい。
シックススミスは企業の奴隷から抜け出そうと苦悩するが、それを支えたのは遺された恋人からの手紙だった。
トム・ハンクスはルイサに協力することになる石油企業の学者。
「巨大企業の陰謀」
 

人生を取り戻した人 2012年

Cloud Atlas_10ロンドンの貧乏編集者ティモシー・カベンディッシュ。殺人を犯した作家の本が馬鹿売れし大もうけしたのもつかの間、借金取りに追われる身に。金持ちの兄に助けを求めたが、うんざりした兄に騙され老人介護施設に監禁同様に入院させられてしまう。
 
サスペンスな1973年の後はイギリス映画のようなウィットの効いたコメディとなっている。せっかく転がり込んできた大金が借金返済のためにすぐに無くなってしまったうえ、分け前をよこせと刑務所から弟たちを送り込んでくる作家から命まで狙われる。1人で適当に生きてきたティモシーが仲間と協力することを覚え、昔なくした愛を取り戻すお話。この世に不要なものなど無いんだよ、と教えてくれる。
トム・ハンクスは殺人作家。
「ある編集者の大脱走」
 

人として死ぬということ 2144年

Cloud Atlas_20給仕クローンとして生まれたソンミ451の毎日は、仲間達とともに完璧に支配され、職場のカフェ以外、外の世界を知らずに過ごしている。そんなある日、友達のユナ939が脱出を試み処刑され、行動をともにしていたソンミも危うく処刑されようとしているところを革命家チャンに救出される。
純血種(人間)の世界を初めて見たソンミ。好きな物を食べ、好きな服を着、自由に生きることを初めて知る。無機質な世界でロボットのように生かされていたソンミは、こうして人として生きるということを覚えていくが-。

 
『ブレードランナー』や『フィフス・エレメント』を彷彿とさせる未来の世界。ここでは人として生まれたクローンの問題と、それを管理する社会への革命が起きようとしている世界を描く。ソンミはクローン奴隷の世界から脱出し、人として生きていこうとするが、社会はまだそれを許さない。管理会社はソンミを抹殺すべく執拗に追い続けるが、いったい誰が決めたルールなのか。そんな危険な状況であってもソンミは脱出したことを後悔しない。奴隷として生かされるよりも、自由に生きていくことを選んだ。毎日眠らされるのではなく、微笑んで死ぬことを選んだのだ。
SF映画では見たことのない未来の世界が描かれるが、このストーリーにも小汚い何もない部屋をタップで次々装飾していく場面があり、ホントに出来たら便利だなと、とても楽しめる。
そしてこのストーリーにも、「奴隷」というキーワードが登場する。
トム・ハンクスは作品内映画の主演俳優。
「伝説のクローン少女と革命」
 

人として誇りを持つには 2321年

Cloud Atlas_03文明が崩壊した未来の世界。ザックリーと家族、村人達は素朴に暮らしていたが、ある日、科学文明を維持したコミニティーからメロニムという女性がやってくる。彼女にはある使命があり、村人達が恐れる「悪魔の山」と呼ばれる場所への案内をザックリーに頼むが-
 
現在から300年以上も先の話で、どんな世の中になっているのかも想像できないが、この物語の設定はおそらく核戦争(か何か)で世界が滅びた後のお話。生き残った人々はいくつかのグループに分れてしまい、それぞれに進化または退化しつつコミュニティーを形成して暮らしている。
主人公ザックリーが属するコミュニティーは、ある島にあり、『マッドマックス2』のようなある意味原始的な生活をしているが、この島にまつわる「ソンミ様」を信仰し、皆で協力して生きている平和的なコミュニティーだ。しかしこの島には人食いとなった部族もおり、しょっちゅう襲撃されていた。
この物語では、表向きには可も無く不可も無くといったザックリーが、非人道的なことを囁く内なる悪魔に悩まされながらも、人のために行動することを決意し、勝利と愛を勝ち取るまでを描く。
この事により、疑い深くいつも苦しみ、中途半端だった彼が、人として生きていくための誇りを得ることが出来る。堂々と生き、堂々と死ぬ権利を勝ち取る。
「崩壊した地球での戦い」


 
Cloud Atlas_01こうしてみていくと、全然別な物語であるようで、訴えかける物は同じだと言える。
6つの物語は絡み合いながら同時進行していくが、最初にも書いたとおり混乱することはなく、すごくうまく繋がっている。一人の役者が色々な人物として登場するのも楽しい。メイクアップとおそらくデジタル処理された影響で、同じ役者とは全く分からない人もいた。このあたりも見所。
ほとんどの人は役は違えど、持っている資質(例えば「正義の人」「悪人」など)が同じなのだが、トム・ハンクスの役は様々に変化する。簡単に言えば悪から善へ。
 
カルマ(業)と輪廻
この作品の基本的な流れはこれにある。

業はその善悪に応じて果報を生じ、死によっても失われず、輪廻転生に伴って、アートマン(意識の最も深い内側にある個の根源)に代々伝えられると考えられた。

このようにもし輪廻があるのだとすれば、トム・ハンクス演じる人に課せられた業は6世代目に彼の発見と努力によってようやく解けたと言える。
自分もしょっちゅう思うんですよね、バチが当たったんやわって(←これは全然違う)。
 
タイトル『クラウド アトラス』とは調べたところによると「気象学における雲形分類」のことらしい。これがホントにあっているとすれば、人の業、人生は約10種類ほどの雲形に分類されるが、雲という物は風によってその形を変えていくことが出来る。風を受けるか受けないかは自分次第であるけれども。
そう言えば作品冒頭に年老いたザックリーが言っていた。「風は次々と声を運んでくる」と。

どこかで見たような設定やシーンもあるけれど、それにイヤな感じはせず、反対に親しみやすくなっていると思う作品。時間は長いけれど一度はこの情報量に挑戦してみては。
ではまた
 
*長いレビューにお付き合い頂きありがとうございました。