ケン・ラッセル『白蛇伝説』(1988) 〜決して子どもと見ないでください

おかしな登場人物達が一晩やかましく重厚に暴れ回る『ゴシック(1986)』に比べれば随分大人しい作品だけれども、また違ったヘンさが臭うようにそこかしこに充満。派手な色使いに、「はい、私が蛇女です」的な見間違うことなきスタイル、セクシャルなシーンが誰が見てもはっきり分かるように演出され、絶対子供とは観てはいけない作品になっている。映画と言うより舞台劇のような作品だ。

The Lair of the White Worm_02
■白蛇伝説 - The Lair of the White Worm -■
1988年/イギリス/93分
監督:ケン・ラッセル
脚本:ケン・ラッセル
原作:ブラム・ストーカー「白蛇の巣」
製作:ケン・ラッセル
製作総指揮:ウィリアム・J・クイグリー 他
撮影:ディック・ブッシュ
音楽:スタニラス・シレヴィッチ
出演:
ピーター・キャパルディ(アンガス・フリント)
アマンダ・ドノホー(レディ・シルヴィア)
キャサリン・オクセンバーグ(イヴ・トレント)
サミ・デイヴィス(メアリー・トレント)
ヒュー・グラント(ジェームス・ダンプトン卿)
ストラトフォード・ジョーンズ(ピーター)
ポール・ブルック(アーニー)

解説:
冒頭からいかにもわざとらしく“蛇”を連想させる事柄を連発。官能的な幻想シーン。いかにも怪しい女など、蛇が人を襲うという事を知っている観客をあざけるように手玉にとり、物語を描いてゆくのはラッセル一流のユーモアで、ホラーと見るのは間違い。彼の才気あふれる“こけおどし”を楽しむべき。原作はB・ストーカー。 (allcinema)

あらすじ:
田園地方が広がる民宿の庭先で発掘をしていた考古学者の青年アンガス。彼がある日、恐竜の頭骨のようなものを発見してから奇妙なことが起き始める。民宿を経営する姉妹とそれらの事件を調べるうち、その村には人間を襲っては食らう「大蛇伝説」があることを知るのだが-


ゴシック』に次いでケン・ラッセル監督作2作目登場。
観終わった後、やっぱりナンジャコラとなったのは一緒だったが、『ゴシック』よりは随分わかりやすいストーリー。本作は“ゴシックホラー”に分類されてもいるようだけど、それほど埃っぽくもなく、派手な演出、(わざと)チープなセットを使っての舞台劇のような感じ。それより何より恐ろしい“大蛇伝説”というよりも、伝説はこうあって欲しい、蛇女はこうあって欲しい、女性はこうあって欲しい、出来ればこうしたい、いやこうあるべきだ、的な男性の希望と妄想が詰め込まれているような気がするんだけど-

The Lair of the White Worm_Movie田園風景が広がるイギリスの、とある地方。
考古学者の青年アンガスは宿泊している民宿の庭先に穴を掘り、古代の遺物を発掘していた。民宿を経営するのは2人の若い姉妹。少し前に両親が行方知れずになり生活のために民宿を営んでいた。若者同士、なごやかに時は過ぎ、とうとうある日、恐竜の頭骨のような物が掘り出される。しかしその夜は地元の祭りであるパーティーが開催される予定で、詳しく調べる時間もないままに自分の部屋に置いて出かけたアンガスだった。

パーティは地元の人々が参加し、大いに盛り上がった。メインイベントは地元にまつわる「大蛇伝説」を模したショー。バンドが人々を襲う大蛇を退治した騎士の歌を高らかに歌う中、その伝説の騎士の末裔ジェームス・ダンプトンが蛇に切りつけ真っ二つにして終わる。アンガスはこの地に伝わる伝説を知ったのだった。そこへ行方不明のままの姉妹の父親の時計が、ある洞窟で見つかったと知らせが入る。

The Lair of the White Worm_Movie一方、“神殿の家”と呼ばれる屋敷に住む謎の美女シルヴィアがいつもより早くこの地に戻ってきた。この大きな古い屋敷に一人で住む彼女は、アンガスが掘り出した頭骨をうやうやしく持ち上げ盗む。そして行きずりの少年を屋敷に連れ帰り誘惑した上、噛み付き殺してしまう。謎の美女シルヴィアは蛇女であった。
蛇女シルヴィアは警官アーニーをも毒牙にかけた後、伝説の白蛇ダイオニオンに捧げるため、処女を求めて村を徘徊する-

白蛇ダイオニオンを守る蛇女シルヴィア。最初の方は謎があり、変わったファッションを身にまとってその造形もなかなか美しいのだけれども、どんどんどぎつく素っ裸に近い状態で登場。それでも笛の音に弱い蛇の習性はきちんと踏襲されており、その昔、大蛇退治に使われたという音楽でひょっこり籠からお出まし、くねくね踊りながら屋敷の外にまんまと出て行くところは笑うところ。

The Lair of the White Worm_Movie全般的に舞台劇のようなこの作品でも顕著な場面が、姉妹の一人イヴが見てしまう古代ローマの恐ろしい幻想シーン。十字架のキリストやかしずく敬虔なシスター達が白蛇やシルヴィアに先導されたローマ兵に襲われ、蹂躙されたシスター達による阿鼻叫喚の地獄絵図となっている。ブラム・ストーカー原作「白蛇の巣」でもキリスト教と白蛇の戦いが描かれているということなので、一応ここに楽しんで挿入したという感じか。
そして最後の生け贄のシーンでは、大きな穴から這い上がってくる白蛇が拝めるが、その大蛇のチープさはよそに、くねくねとご主人様のためにかいがいしく働く蛇女シルヴィアの動きに滑稽なほどの生真面目さが漂う。

The Lair of the White Worm_Movieそれにしてもよく分からないのが、ジェームスが夢で見る飛行機のシーン。超ミニスカートのCA2人(1人はシルヴィア)。最初は給仕していたのに途中から取っ組み合いの喧嘩に。それを見ていやらしい想像をしているらしいジェームス。もう1人のCA(姉妹の1人)は延々と注意事項を無言で説明。というなんとも説明しがたいシーン。ジェームスの不埒な妄想をここまで具現化させるとは、、これはサービス場面なのかな。

こういったような大げさな舞台劇の合間にシリアスで現実的なシーンが度々はさまり、じゃーんという効果音とあっけらかんとした伝説のカントリーミュージックのような音楽。躁と鬱が交互に襲いかかる、まさにケン・ラッセル作品。
青年アンガスは持っていた経験と情報をフル活用して蛇女に立ち向かうが、最後、『ゴシック』のようなどんでん返しがこの作品にもありますよ。ちなみにヒュー・グラント演じるジェームスは、蛇女をやっつけたいと言うより、おびき出して我が物にしたいという下心がぷんぷん。
原作者ブラム・ストーカーが観たら、「ちょっとーー・・」と文句を言うかも。
ではまた

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