『海岸』(2011) - The Shore –

30分の短編ながら、別れてしまった兄弟同然の幼なじみとの葛藤を軸に、北アイルランドの港町に住む人々の過酷な状況、アメリカへの移住、強い絆、、などが盛り込まれる。決してよくない状況の中にありながら力強く、暖かく生活する人々に何かがもらえる良作。
 

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■海岸 – The Shore -■
2011年/イギリス/30分
監督:テリー・ジョージ
脚本:テリー・ジョージ
製作:テリー・ジョージ 他
撮影:マイケル・マクドノー
出演:
キアラン・ハインズ(ジョー)

コンリース・ヒル(パディ)
ケリー・コンドン(パトリシア)
マギー・クローニン(メアリー)
 

解説:
第84回アカデミー賞で短編実写映画賞受賞。短いストーリーながら、社会派監督らしく背景に北アイルランド問題を盛り込んで、深い見応えを見る者に与える。キャストも「裏切りのサーカス」やTV「犯罪捜査官アナ・トラヴィス」シリーズのC・ハインズ、「砂漠でサーモン・フィッシング」のC・ヒルら、短編の小品らしからぬ充実のメンバーがそろった。

あらすじ:
北アイルランド出身の男性ジョーが25年ぶりに、24歳の娘パトリシアを連れて故郷の町に帰る。故郷には以前と同じように、懐かしい海岸がある。ジョーには、ある誤解から対立するようになった幼なじみの友人パディがいたが、パディは今、ジョーの元婚約者のメアリーと結婚していた。ジョーは少しずつ苦い過去を思い出すが、25年前に一体何があったのか。それでもパトリシアはジョーとパディの仲を取り戻そうとしていくが-
 (WOWOW)


The Shore_05潮が引いて干潟になった海岸でムール貝を集める男達。彼らはここに長く住む人々だが、仕事が無く生活保護受給の身だ。貝を捕って食べるのかな、と思って観ていると、どうやら貝仲買人に売って生活費の足しにしているらしい。しかし、あまり採れなくなっている上に貝は市場にあふれていて大してお金にならない。それに生活保護をもらっている間は他の仕事で儲けることがばれるとまずいという状況。
なのに、冗談を言い合って笑っている彼らは非常に明るい。仕事もお金も無い悲壮感はあまり感じられなく、それは彼らを支える妻にも当てはまる。
 
ここは北アイルランド。タイタニックが建造された首都ベルファスト近く、海岸沿いの小さな町。

北アイルランドとはグレートブリテン及び北アイルランド連合王国(通称イギリス)の一部でイギリスはイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4つの国から構成されている。決してイギリスに迎合しなかったのはアイルランド共和国(アイルランド島南部)。
アイルランドと言えば血気盛んな、紛争、IRA(アイルランド共和軍)などを連想するが、これは南部のお話で本作舞台の北アイルランドではない。が、アイルランド共和国の国籍法に「イギリスとアイルランド両国が北アイルランドの全ての住民にアイルランド人またはイギリス人となる権利を与える」という条項があり、複雑ではある。

 
The Shore_07この小さな町で生まれ育ち、今はアメリカに居住するジョーが娘パトリシアを連れて久しぶりに戻ってくる。20歳そこそこでアメリカに移住した彼は、25年ぶりに故郷に戻ってきたことになる。車窓から見える久しぶりの故郷の景色に「こんなに緑が多かったのか」と感嘆する彼。変わらぬ故郷の景色とともに豊かでは無い地域の背景も垣間見える。
 
ジョーが故郷を案内し、娘にタイタニック号が建造された造船所を高台から臨むシーンがあるが、当時は仕事と人、金にあふれ、繁栄していたことを思わせる。本作の男達が失業しているところを見ると本作の時代は1980年代と思われ、失業率が最も高かった時代だ(1986年:17.2%)。
アメリカに移ったジョーはそれなりに豊かに生活しているようだ。しかしジョーがアメリカに移住したのは経済的な問題では無かった。若かった当時のジョーには地元に多くの仲間や、兄弟同然の幼なじみ、なにより婚約者がいた。その彼女を置いたまま逃げるように単身アメリカに移ったジョー。それをここ北アイルランドに住む叔父に聞いた娘パトリシアは、詳しく父親に話すよう請う。
 
娘に聞かれ、父親はぽつりぽつりと話し出す。過去の若かりし日の苦い思い出を

 

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若気の至りで起きた一連の出来事、幼なじみと婚約者への裏切り。しかしそれを全て包み許してくれた故郷の地。それらに北アイルランドの歴史と笑いの要素までも取り入れて、全てを30分という短い時間の短編にした監督の手腕は素晴らしい。これだけのものを盛り込みながらも、各シーンには余裕があり、こんなことまでやっていて時間は足りるの?とまで観ている者に思わせてしまうほど。

 icon-film 監督 テリー・ジョージ
イギリスの映画監督、脚本家。北アイルランドのベルファスト生まれ。
『父の祈りを』と『ホテル・ルワンダ』で2度アカデミー脚本賞にノミネートされている。
 
■主な作品
 ・父の祈りを – In the Name of the Father (1993年、制作総指揮、脚本)
 ・ボクサー – The Boxer (1997年、脚本)
 ・ジャスティス – Hart’s War (2002年、脚本)
 ・ホテル・ルワンダ – Hotel Rwanda (2004年、監督・製作・脚本)
 ・帰らない日々 – Reservation Road (2007年、監督・脚本)