『マンク ~破戒僧~』(2011) - Le moine –

厳しい戒律の下、自己をこれでもかと抑え込み、神の僕として暮らす修道士。そんな中でも彼は生まれてすぐから修道院で育ち一般の世界を経験したことが無い清廉な神の僕。その彼が悪魔のような女に魅入られたことから、彼の世界のすべてが変わっていく。
本作は、発表当時激しい非難を浴びながらもサド、ホフマンからブルトンに至る異貌の作家たちの賛辞によって一世を風靡した、異才マシュー・G・ルイスが若干19歳にして書きあげた「マンク」が原作。



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■マンク ~破戒僧~ – Le moine -■
2011年/フランス・スペイン/101分
監督:ドミニク・モル
脚本:ドミニク・モル、アンヌ=ルイーセ・トリヴィディク
原作:マシュー・グレゴリー・ルイス「マンク」
製作:ミシェル・サンジャン
製作総指揮:ピラール・ベニート、アルバロ・ロンゴリア
撮影:パトリック・ブロシェ
音楽:アルベルト・イグレシアス
出演:
ヴァンサン・カッセル(アンブロシオ)
デボラ・フランソワ(バレリオ)
ジョセフィーヌ・ジャピ(アントニエ)
カトリーヌ・ムシェ(エルバイラ)
セルジ・ロペス
ジェラルディン・チャップリン

解説:
聖職者たる修道僧が色欲から殺人まであらゆる戒律を破るという背徳的な内容から、長らく禁書扱いされていたというマシュー・G・ルイスのゴシック小説「モンク」を、「ハリー、見知らぬ友人」のD・モル監督が映画化した衝撃のスリラー。「ブラック・スワン」のV・カッセルが悪魔の誘惑に膝を屈する破戒僧を熱演するほか、「譜めくりの女」のD・フランソワが悪魔の化身のような美女を蠱惑的に演じ、強い印象を残した。
 (WOWOW)

あらすじ:
17世紀スペイン・マドリード。修道院の前に捨てられていた赤ん坊アンブロシオは修道僧達に育てられ、やがて清廉な修道士として成長し、地域の人々の尊敬を集めていた。
そんなある日、火事で両親を亡くし、自身も酷い火傷を負ったためマスクで顔を覆った少年バレリオが見習い修道士として入門を求めてくる。体力的に無理だろうと反対する修道士達の中、アンブロシオは寛容の心を持ってバレリオを迎え入れる。
だがある夜、バレリオはアンブロシオに衝撃の告白を始める-


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善は善、悪は悪、黒は黒、白は白。
ある意味融通の利かないとも言える、しっかりとした信念の元に生きる修道士アンブロシオ。そんな彼の説教は尊大であり雄弁。聞く者への説得力に疑いの欠片はみじんも無く、多くの人が彼の説教を聞きに修道院へやって来る。
しかし彼には出生の謎があり、嵐の夜に人知れず修道院の門の前に捨てられていたのを修道士達に育てられ、今に至る。生まれてからずっとこの隔絶された世界に生きてきたアンブロシオは、神に最も近いとも言える修道士となった。

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その日も多くの人々が彼の説教を聞くため集まってきたが、その中に2人の少女がいた。1人は邪な目つきで彼を眺め、もう1人はその説教の素晴らしさに気を失うほどの無垢な少女だった。

そんなある日、叔父と称する男に連れられ1人の少年が修道院の門をたたく。この少年バレリオは家が火事にあい両親を亡くした上、酷い火傷を負ったためマスクで顔を覆っていたが、見習い修道士として入門したいと言う。厳しい戒律の下では彼の体力が保たないのではと修道士達は意見したが、アンブロシオは彼の心を癒やす手伝いになるのではと寛容の気持ちで彼を迎え入れる。
ちょうど同じ頃、アンブロシオが師と仰ぐ老修道士が病の床で「彼がやって来た。悪魔が近くを彷徨いている」という謎の言葉とともに息を引き取った。

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そんなある夜、持病の頭痛に苦しむアンブロシオに音も無く近づいてきたバレリオ。アンブロシオの頭を両手で包むことで頭痛を治してしまったバレリオに驚くアンブロシオ。そんなアンブロシオにバレリオはマスクを外して告白を始める。
それを聞き、バレリオの秘密を知ったちょうどその時、清廉な僧アンブロシオに1本の矢が放たれ、生まれてすぐから培ってきた修道士アンブロシオの全てがガラガラと音を立てて崩れ始めていく-


不気味な森、古い修道院、出没する幽霊、何度も見る同じ夢、汚れなき乙女とマスクの少年。
ゴシックものとしての舞台は十分すぎるほどに揃っている。そこに悪魔の手に落ちた僧の情欲、黒魔術、近親相姦、殺人、、。原作が160年間禁書になっていたのも頷ける内容だ。

Matthew_Gregory_Lewis

原作者マシュー・グレゴリー・ルイス
イギリスの小説家、劇作家。1775年ロンドン生まれ。
ゴシック小説の代表的な作品の一つとされる『マンク』などで知られ、「マンク・ルイス」とも呼ばれた。
オックスフォード大学卒業後、1794年にオランダのデン・ハーグのイギリス大使館に勤め、ここには数か月滞在しただけだったが、この間の10週間で『マンク』Ambrosio, or the Monkを書き上げた。これは翌年の夏に発行され、その背徳性と残虐さで大きな非難を浴びたが、ルイスをたちまち有名人にした。『マンク』にどのような倫理的または美的な欠点があったにしろ、ルイスは世間で大いに受け入れられ、社交界の花形となる。

1816年夏に、ジュネーヴ滞在中のバイロン、パーシー・ビッシュ・シェリー、メアリー・シェリー、ジョン・ポリドリを訪問して、5つの怪談について詳しく話したことが、シェリーの8月18日から始まる日記(Journal at Geneva (including ghost stories) and on return to England, 1816)に記されている。(「ディオダディ荘の怪奇談義」には参加していないと見られる)  (Wiki:マシュー・グレゴリー・ルイス)

オフィシャルサイトによるとこの原作の完全映画化とあるが、不気味なゴシック設定を見せるのに時間を取り過ぎて、肝心の主役アンブロシオが何故、どうやって背徳の世界に墜ちていったかというのが少しわかりにくい。また少年バレリオの意図も掴みづらく、見終わった後、あれこれと自分で補完しなくてはならない作業が待っている。
それと邦題の「破戒僧」。意味は「戒律を破った僧侶」のことだそうだが、その「はかい」のインパクトから暴れ回る僧侶の話かと想像していた(のは自分だけかも)。もうちょっと情緒のあるサブタイトルが欲しかったところ。

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それにしても本作で一番怖かったのは、ゴシック描写でも破戒僧でも結末でもない。
修道院繋がりで尼僧達が出てくるんだけども、1人の若い尼僧が恋人の子を孕んでしまったのが他の尼僧達にばれて、冷たい石の部屋に閉じ込められた上、水も食べ物ももらえずにお腹の子共々死んでしまったこと(見殺し)。こっちの破壊力の方がよっぽど大きかった。

こういう作品を観ると、つい原作が読みたくなるなー。
ではまた

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