『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』(2011) - Extremely Loud & Incredibly Close –

あの日父を失くした少年の、喪失と再生のものがたり

Extremely Loud & Incredibly Close_00
■ものすごくうるさくて、ありえないほど近い
 - Extremely Loud & Incredibly Close -■

2011年/アメリカ/129分
監督:スティーブン・ダルドリー
脚本:エリック・ロス
原作:ジョナサン・サフラン・フォア同名小説
製作:スコット・ルーディン
製作総指揮:セリア・D・コスタス、マーク・ロイバル他
撮影:クリス・メンゲス
音楽:ニコ・マーリー
 
出演:
トム・ハンクス(トーマス・シェル)
サンドラ・ブロック(リンダ・シェル)
トーマス・ホーン(オスカー・シェル)
マックス・フォン・シドー(間借人)
ジョン・グッドマン(スタン)
ヴィオラ・デイヴィス(アビー・ブラック)
ジェフリー・ライト(ウィリアム・ブラック)
ゾーイ・コールドウェル(オスカーの祖母)
ジェームズ・ガンドルフィーニ(ロン)

解説:
J・S・フォアの原作を、「愛を読むひと」のS・ダルドリー監督が映画化。第84回アカデミー賞で作品賞と助演男優賞(M・V・シドーに対する)にノミネートされたことも話題。演技派たちが共演しているが、実質的主役はオスカー役の子役、T・ホーン。演技経験が小学校の寸劇だけという彼が、ベテラン相手にまったくひけを取らない、名演を披露。その純真無垢な姿が泣かせる。オスカーが鍵穴を探しながら、さまざまな人と交流していくのも心温まるが、彼を見守る謎の間借り人を演じたシドーの存在感がやはり出色。
   (WOWOW)
 
あらすじ:
Extremely Loud & Incredibly Close_029.11アメリカ同時多発テロで最愛の父を亡くした少年オスカーは、ある日、父の遺品から一本の鍵を見つける。
その鍵を使って開けることが出来るものを探し出すことが父親からのメッセージだと感じたオスカーは、鍵が入っていた封筒にあった“BLACK”という文字を頼りに、ニューヨークに住むブラック氏を片っ端から訪ね歩くという行動を起こすが-


変わったタイトルで目を引き、「9.11」関連のものだと知って、きっと泣かせるつもりなんだな?そうなんだなと今まで観ずにいた本作-。
9.11関連の作品では『ワールド・トレード・センター(2006)』『ユナイテッド93(2006)』「9.11への道(2006)」『再会の街で(2007)』などがあげられるが、当然のことながら主人公は大人で大人目線の物語になっている。
本作『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』は、10歳の少年オスカーが主人公だ。宝石店を営む父親がたまたま商談で寄っていたWTCにテロ機がぶつかり命を落とす。ニューヨークに住むオスカーは、当日学校を早く帰され、父親からの留守電を聞き、テレビを見、空っぽの棺の葬儀に出席する。
本作は、少年の心に突き刺さった飛行機が、ほどけて、溶けて形が無くなり、パラパラになって少年の元から消えて無くなっていくまでの日々を追う。
 
 
Extremely Loud & Incredibly Close_19ニューヨークのアパートに住むオスカー。父親トーマスは宝石店を営み母親リンダは会社員。不景気続きで裕福とは言えないが、父親は少し他の子供達と違う、変わった少年オスカーの相手がうまい。
オスカーは本が好きで空想家。ものの見方が独特で趣味は「調査探検」。結果、年のわりに知識豊富でよくしゃべる。いつも頭の中で「発明」して、何かを表現し、作ることも上手い。反面、情緒的に不安定な面がありカウンセリングに通ったりもしている。
そんな一人息子の話し相手になり、うまく導く父親トーマス。オスカーにとって父親はよき師であり、友人であり、理解者だった。
 
ある日、オスカーは早く学校を帰される。
いつものようにアパートのドアマンであるスタンと軽口をたたきあい、両親のいない部屋に上がるオスカー。冷蔵庫をあさり、買ってきたジュースを飲みながら友達から誘いの連絡が入っていないかと、何気なく留守電のボタンを押す。
そこには父親の声が入っていた。
 「僕は大丈夫だ。消防士の指示を待っている。大丈夫だから。心配しないで」
いくつも入っていた父親からのメッセージ。
何事かとテレビをつけたオスカーは、飛行機が突き刺さったビルの映像を見ることになる-。
 
Extremely Loud & Incredibly Close_23父親の葬儀。
遺体のない空っぽの棺。オスカーは列席することが出来ない。
 「棺が空っぽじゃないか!こんな葬儀に意味があるのか?」
オスカーの頭には、高いビルからふわりと落ちていく父親の像が映り続ける。
実は、このシーンは作品最初にも映されるが、まさか「これ」とは、、想像通りであったことにびっくりした。
くるりくるりと舞う身体。映されるのは乱れる髪やたなびくズボンの裾。
オスカーが想像するにはあまりにも残酷だが、実は、違う。
危険だからとオスカーがずっと乗れなかったブランコに誘う父親の姿が重ねられている(と思いたい)。
その姿は「死」ではなく、「」であり、着地できる「成功」なのだ。
 
Extremely Loud & Incredibly Close_21朝起きて学校へ行くため家を出るとき靴は「軽い」。でもすぐに「重くなる」。それは残された母親の事を考えると-。
そんなオスカーの靴が朝からずっと重かった日に、オスカーはようやく父親のクローゼットの扉を開けることが出来た。あの「最悪の日」から1年以上経っていた頃だ。そこでたまたま見つけた小さな袋に入った1本の鍵。袋には「BLACK」の文字。
調査探検が仕事のオスカーは、これが父親からのメッセージであると感じる。この鍵で開けたものの中に何か重要なものが隠されていると。この日からオスカーは母親には内緒で、ニューヨーク中の‘ブラック氏’を訪ね、父親のことを知らないか、鍵のことを知らないかと聞いて歩くことになる。


 
Extremely Loud & Incredibly Close_17乗り物は危険だからと、どこまでも歩いて400人以上ものブラック氏を訪ねる計画を立てたオスカーは、行く先々のブラック氏に、各々の問題を抱え生きている様を見せつけられる。途中から一緒に探すことになる老人には、前の大戦時に起きたある事からのショックで言葉を話せなくなったという問題さえある。
 
本作は、テロの問題だけに止まらず、世界中の各民族間の問題や、それによって引き起こされる事を背景に、結果、子供の小さな肩にずしりと乗る大人の罪を表現する。
オスカーが大人のように我慢できなくなり、老人に吐き出す言葉!
 パパは9.11で死んだ
 1年間はつらすぎてパパの部屋に入れなかった
 絶対パパのブラック氏を見つけると決めたこと
 鍵穴を見つけたら知らない人がパパを殺したことを納得できるかも!
 男であり女である人と会って怖かった
 コイン集めのレイモスは食べるお金がない!
 知らない場所は怖すぎて自分を抱きしめていないと壊れそう!
 今でも家を出るのが怖い。ドアの開く音が

 
そして相手を思いやるばかりに、うまく会話できなくなっていた母子の問題。これらを解決するのは他の誰でもない、自分だということを。
 
タイトル「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」(原作も同じ)の意味を考えているのだが、今もよく分からない。時々オスカーが見せる耳を覆う仕草から、オスカーが感じる何かなのかと思ったが、子供ってこういうものだよ、という単純な意味なのかな。
 
ではまた
 
**老人の歩く姿がメリン神父に見えて見えて仕方なかったのは、秘密**