『BUG/バグ』(2006) ~心の隙間を埋める虫

何度観てもぶっ飛んでるとしか思えない昆虫寄生ホラー映画『BUG/バグ』。監督が『エクソシスト』のウィリアム・フリードキンと知って二度ビックリ。でもよく考えると心の隙間を抱える人間に「寄生」し、「苦しめる」物語とみれば同じだわ、同じだったんだわ!あの悪魔と!

Bug

■ BUG/バグ  – Bug – ■
2006年/アメリカ/102分
監督:ウィリアム・フリードキン
脚本:トレイシー・レッツ
製作:ホリー・ウィーアズマ他
製作総指揮:マイケル・オホーヴェン他
撮影:マイケル・グレイディ
音楽:ブライアン・タイラー

出演:
アシュレイ・ジャッド(アグネス)
マイケル・シャノン(ピーター)
ハリー・コニック・Jr(ジェリー)
リン・コリンズ(R.C.)
ブライアン・F・オバーン(ドクター・スウィート)

■解説:
ウィリアム・フリードキン監督のこの映画はトレイシー・レッツの同名の舞台劇が元になっている。MPAAは本作を、暴力・性・裸体・過激な言葉・薬物乱用のシーンがあるとして、R指定にした。 第59回カンヌ国際映画祭監督週間に出品され、 国際映画批評家連盟賞を受賞した。

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Contents

あらすじ

Bug

暴力をふるう元夫ジェリーの仮釈放が近く、日々怯えている独り身のアグネス。オクラホマにある酒場で働きながら、近くの道路沿いのモーテルで暮らす彼女には、数年前に愛する息子を“失踪”という形で失った過去がある。同じ職場で働く親しい友人がいるものの、心に空いた大きな穴は埋められないままだった。

そんなある時からジェリーの仮釈放がいよいよ近くなり、落ち着かない毎日を過ごすアグネスの部屋にしょっちゅう無言電話が鳴るようになる。ジェリーの嫌がらせに違いないと思う彼女は、雑音しか聞こえてこない受話器に向かって毒を吐く。そしてお酒やドラッグに溺れるのだ。
そんなある夜、友人R.C.から酒場で出会ったという男ピーターを紹介される。大人しく人慣れしていない彼に穏やかさを感じたアグネスは次第に彼に心を開き、一夜を共に。ピーターにとっても彼女は真実を話すことが出来る唯一の人になった。

翌朝、ベッドで暴れているピーターにアグネスが何事かときくと、虫にかまれ、その虫がまだベッドにいると言う。ほら、これだ、と見せられても虫は小さすぎてアグネスには確認できなかった。枕にも、布団にもいる、と騒ぐピーターの話をきくうちに、アグネス自身も虫にかまれ始め、元夫ジェリーの暴力的な来訪よりも、その「虫」の存在が二人の大きな課題となった。

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早速、大量の殺虫剤や蠅取り紙を購入し、対策を練る。だがあまりの猟奇を逸した行動に、友人R.C.は、それは自傷行為だと心配しピーターをののしり、アグネスをモーテルから連れ出そうとする。だが、もう遅かった。虫が見え、虫に傷つけられ始めていたアグネスは同じ状態のピーターとは一心同体。まるで歯車がカチッと嵌るように、二人は離れることが出来なくなっていたのだ ─


感想

古びて狭いモーテルながら、暖かみのある色でまとめられていたアグネスの部屋。失踪したままの息子の持ち物にあった顕微鏡を引っ張り出して虫を研究しているピーターに、「それら(息子のおもちゃ)をアグネスが見る前に片づけておけよ」と言うジェリーにも息子を失った心の痛みが感じられる。
確かに暴力をふるうしアグネスを苦しめるが、ジェリーとアグネスはとても人間らしかった。 …ピーターと会うまでは。

ピーターはアグネスに秘密を明かす。自分は軍に追われている。というのもシリアで人体実験され脱走して逃げているからだ。この虫は軍の人体実験で身体に植え付けられたものであり、それをここに持ち込んでしまった、と。
虫が皮膚の下に潜り込んだと体中を傷だらけにしていくピーター。卵のうがあるに違いないとペンチで歯まで抜いた。その歯を顕微鏡で見ると確かに虫がうごめいている。その虫はアグネスにもはっきり見える。

虫からの交信を阻むためアルミホイルで部屋中を覆い、青い虫よけライトで照らされた真っ青の部屋。こんな部屋で正気を保つのは難しい。アグネスが自分こそが虫の母でありビッグマザーなのよ!と半ば誇らしげに叫ぶ頃には、部屋の外に軍のヘリが旋回する音が大きく響き、ヘリの強力なライトが二人の青い部屋を照らし出す。

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もう、ここまで来たら二人のラストは一つしかない。
『エクソシスト』でカラス神父が信念をもって成し遂げたように、二人も虫の子どもたちと一緒に大階段を飛び降りるしかないのだ。真っ逆さまに ─

これは、精神疾患を持つ男と孤独な女のお話なのか。それとも軍の人体実験のお話なのか。「虫」はいたのか、いなかったのか。ドクター・スウィートは本当に訪れたのか。ドクターはピーターは4年間も精神疾患で監禁されていたと言ったが、その前に当然兵士として参加した【戦闘】については何も語っていない。

はっきりとは何も分からない。けれども「虫」の存在は、軍で精神を病んだ男と息子を失い疲れ果てた女の生きがいになった。守り、育てるものとなっていった。

部屋を青くせず、虫をかごで飼うくらいにしておけば…。“軍から逃げる”ことに固執しすぎさえしなければ…。二人はいいカップルになれたろうに、と思うと残念で仕方ない。
だが「強迫観念」に囚われてしまうと、囚われすぎてしまうと、こういう末路もあるということだ。強迫観念の対象は何でもあり得る。虫でも悪魔でもおかまいなし。

問題をうまくかわしながら、もっとざっくりと生きていこう… としか言いようがない…(-“-)

電話の主

そういえば、虫が出る前に鳴り続けていたアグネスへの電話の主は何者だったのか?どうやらジェリーではないようだが、、。この電話も元夫に違いないと思い込んでいたアグネスの強迫観念のなせる業、思い込み。ベルの音を聞き、受話器をとったのは二人だけだ。もう一つの可能性として大事な息子に関するどこかからの連絡?こちらではなかったことは祈るばかりだ。例えば誘拐犯からだとか、それこそ誘拐犯のところから逃げ出した息子からだとか ─

監督 ウィリアム・フリードキン

アメリカ合衆国の映画監督。1955年、地元のTV局にメッセンジャーボーイとして入り、その後は数々の番組でアシスタントディレクターを務める。1960年代に入りドキュメンタリーの監督などをして注目され、1965年にハリウッドに移る。1967年、『ソニーとシェールのグッド・タイムス』(日本ではビデオのみ公開)で劇場映画の監督としてデビューした。

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■主な作品

  • ソニーとシェールのグッド・タイムス (1967)
  • 誕生パーティー (1968)
  • 警察がミンスキー劇場をガサ入れした夜 (1968)
  • 真夜中のパーティー (1970)
  • フレンチ・コネクション (1971)
  • エクソシスト (1973)
  • 恐怖の報酬 (1977)
  • ブリンクス (1978)
  • クルージング (1980)
  • 世紀の取り引き (1983)
  • L.A.大捜査線/狼たちの街 (1985)
  • ランページ/裁かれた狂気 (1987)
  • ガーディアン/森は泣いている (1990)
  • ハード・チェック (1994)
  • ジェイド (1995)
  • 英雄の条件 (2000)
  • ハンテッド (2003)
  • BUG/バグ (2006)
  • キラー・スナイパー (2011)

他、TVドラマ、ドキュメンタリーなど多数

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