『エッセンシャル・キリング』(2010) - Essential Killing –

逃げろ!!
極限状態に置かれた人間と 自然の壮大な格闘劇

 

Essential Killing_23

 
■エッセンシャル・キリング - Essential Killing -■
2010年/ポーランド・ノルウェー・アイルランド・ハンガリー/85分
監督:イエジー・スコリモフスキ
脚本:イエジー・スコリモフスキ、エヴァ・ピャスコフスカ
製作:イエジー・スコリモフスキ、エヴァ・ピャスコフスカ
製作総指揮:ジェレミー・トーマス、アンドリュー・ロウ、ピーター・ワトソン
撮影:アダム・シコラ
音楽:パヴェウ・ミキェティン
 
出演
ヴィンセント・ギャロ(ムハンマド)
エマニュエル・セニエ(マーガレット)
ザック・コーエン(米国人傭兵)
イフタック・オフィア(米国人傭兵)
ニコライ・クレーヴェ・ブロック(ヘリコプター操縦士)
スティッグ・フローデ・ヘンリクセン(ヘリコプター操縦士)
 
解説:
荒涼とした大自然の中、V・ギャロ扮する正体不明のひとりの男がひたすら必死に逃げ回るさまを、主人公の台詞を一切排して先鋭的に描いた異色のノンストップ・アクション。
「アンナと過ごした4日間」で現代の映画界に劇的な復活を果たしたポーランドの鬼才J・スコリモフスキ監督が、前作のひそやかな室内恋愛劇とはうって変わり、本作では荒涼とした大自然をバックにした、シンプルにして大胆きわまりない活劇映画に挑戦。自らの生き残りを懸けた極限状況下、一個の野獣と化してただひたすら必死に逃げ回るギャロの熱演ぶりがなんとも凄まじくて、観る者すべてを圧倒すること間違いなし。第67回ヴェネチア国際映画祭では、審査員特別賞と並んで、ギャロがみごと男優賞を獲得した。
  (WOWOW)
 
あらすじ:
Essential Killing_01アフガニスタンの荒涼とした砂漠地帯。
偵察中のアメリカ兵の目から逃れるため、じっと洞窟に潜んでいた一人の男ムハンマド。なんとかやり過ごせるかと思ったが、アメリカ兵に見つけられ、手にしていたバズーカで兵達を吹き飛ばしたためにアメリカ軍のヘリに見つかる。その場を逃げ出したもののすぐに捕まり、捕虜となって収容所に送られ、厳しい尋問と拷問を受ける。
その後、遠くの地に移送になったが、移動中のトラックが事故を起こし転がり出たムハンマドは、今まで見たこともない雪に閉ざされた森の中を走り始める-


Essential Killing:不可欠な殺害


 
本作はアラブ兵ムハンマドが囚われの身から一転、かつて見たことも経験したことも無い極寒の地で、生き抜き、逃げぬき、祖国にたどり着きたい一心で走り続ける物語だ。
ベースとしてイスラム系テロリストが設定されているが、主人公ムハンマドには台詞は一切無く、雪深い森の中を逃げ続ける一匹の狼の話のように描かれている。
 
 
Essential Killing_11アラブ兵ムハンマド。
幼い頃より呪文のように唱え続けてきたアラーの教え。いつしかそれはこの世の悪魔とされる特定の国に牙をむくことの礎となっていた。
 
 お前は何も知らない。アラーだけがご存じだ
 ちっぽけなお前の命をアラーの思し召しのために使うことが出来たなら、
 お前の家族は未来永劫アラーに守られるだろう-

 
そうやって兵士は作りあげられていく。身体、精神のすみずみまで、その教えは行き渡り浸透している。一欠片の穴も無い。
ムハンマドもそうやって兵士になった。
 
Essential Killing_14かたやアメリカの兵士はどうだろう。
本作に出てくるアメリカ兵は、軽口をたたきながら高価な重装備を携行し、操り、まるでゲームのように裸同然の敵を追い詰める。みな二十歳そこそこだ。
 
本作は決して戦争映画ではない。
アメリカやタリバン、アフガニスタン等々、兵士の悲喜こもごもを扱った作品でもない。兵士だった一人の男が、過酷な大自然の中を家族の元に戻りたい一心で、生き延びる事だけを願い逃亡を続ける物語だ。
生きるために蟻を食べ、樹皮を噛み、走り続ける。
辺り一帯は、砂漠の国に生まれ育った彼が見たことも無い、森に雪と氷。
逃げるために通りがかった人を殺し車を奪う。生きるために追っ手の犬を刺す。言葉は通じず、説明し、わかり合おうとは思わない。もはや手負いの猛獣のようなムハンマド。
全ての物を取り上げられ、敵が追って来る中、立ちはだかる大自然を味方に付け、生き抜こうとする一人の動物。台詞は無くともその胸中は、余分な肉がそぎ落とされた顔と身体が雄弁に語る。

 

ヴィンセント・ギャロ -Vincent Gallo(ムハンマド)
Essential Killing_16ニューヨーク州バッファロー出身のミュージシャン・画家・俳優・映画監督。両親はシチリア島からの移民である、シチリア系アメリカ人。
ストイックさとエキセントリックさを同時に感じさせる超個性派俳優。自伝的な内容の『バッファロー’66』(1998年、監督・主演)により脚光を浴びる。与えられた役を演じるだけでなく、監督、美術、音楽などの分野でも才能を発揮している。ニューヨークの路上で出会ったバスキアとバンドを組んでいた事もある。(Wiki)

■主な出演作
 ・グッドフェローズ(1990)
 ・アリゾナ・ドリーム(1992)
 ・愛と精霊の家(1994)
 ・バスキア(1996/カメオ出演)
 ・気まぐれな狂気(1997)
 ・バッファロー’66 Buffalo ’66(1998/兼監督・脚本)
 ・グッバイ・ラバー(1999)
 ・ガーゴイル(2001)
 ・ブラウン・バニー The Brown Bunny(2003/兼監督・製作・脚本・撮影・編集・衣装・メイク)
 ・狼たちの鎮魂歌(2003)
 ・モスクワ・ゼロ(2006)
 ・テトロ 過去を殺した男(2009)
 ・エッセンシャル・キリング(2010/第67回ヴェネツィア国際映画祭男優賞受賞)
 ・Promises Written in Water(2010/兼監督・脚本・製作・音楽・編集・美術)
 ・Loosies(2012)
 ・La leggenda di Kaspar Hauser(2012)

 

監督イエジー・スコリモフスキ -Jerzy Skolimowski
Jerzy_Skolimowskiポーランド・ウッチ出身の映画監督・脚本家・俳優。
ワルシャワ大学とPolish Film Schoolで学ぶ。これまで20本ほどの映画を監督しており、カンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭で賞を受けている。
1991年の『Ferdydurke』以降、監督作品がなかったが、2008年にフランスとポーランドの合作による『アンナと過ごした4日間』で17年ぶりに復帰。同作品で東京国際映画祭コンペティション部門の監督賞を受賞した。(Wiki)
作者:Festival Internacional de Cine en Guadalajara
■主な監督作品
 ・身分証明書 Rysopis (1964)
 ・不戦勝 Walkower (1965)
 ・バリエラ Bariera (1966)
 ・手を挙げろ! Rece Do Gory (1967)
 ・早春 Deep End (1971)
 ・ザ・シャウト さまよえる幻響 The Shout (1978)
 ・Moonlighting (1982)
 ・ライトシップ The Lightship (1985)
 ・アンナと過ごした4日間 4 Nights with Anna / Cztery noce z Anna (2008)
 ・エッセンシャル・キリング Essential Killing (2010)

 


白と黒しかない世界を走るムハンマド。この世には果たして「白」と「黒」しか存在しないのか?
彼が疲労の極致でで時折見る幻影は、砂漠の黄色、青い空、赤い果物と、生命を感じさせられる色で満ちあふれている。そして愛しい妻と子供はブルーの絹に守られ、それに辿り着きたい一心で彼は白銀の世界をどこまでも走って行く。
本作を観れば、肺に容赦なく入ってくる、ひりつくような澄んだ冷たい空気を感じることが出来るはず。
 
ではまた
 

Essential Killing_04 

 

 

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