『メランコリア』(2011) - Melancholia –

世界が終わる。
その衝撃の瞬間をあなたは目撃する-。

 

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■メランコリア - Melancholia -■
2011年/デンマーク・スウェーデン・フランス・ドイツ/130分
監督:ラース・フォン・トリアー
脚本:ラース・フォン・トリアー
製作:ミタ・ルイーズ・フォルデイガー、ルイーズ・ヴェス
製作総指揮:ペーター・ガルデ、ピーター・アールベーク・ジェンセン
撮影:マヌエル・アルベルト・クラロ
 
出演
キルスティン・ダンスト(ジャスティン)
シャルロット・ゲンズブール(クレア)
キーファー・サザーランド(ジョン)
アレクサンダー・スカルスガルド(マイケル)
シャーロット・ランプリング(ギャビー)
ジョン・ハート(デクスター)
イェスパー・クリステンセン(リトル・ファーザー)
ステラン・スカルスガルド(ジャック)
ウド・キア(ウェディング・プランナー)
ブラディ・コーベット(ティム)
キャメロン・スパー(レオ)
 
解説:
「ダンサー・イン・ザ・ダーク」「アンチクライスト」の鬼才ラース・フォン・トリアー監督が、一組の姉妹とその家族を通して世界の終わりを描く衝撃のドラマ。巨大惑星の異常接近によって終末を迎えようとしていた地球を舞台に、世界の終わりに立ち会うことになった人々の姿を圧倒的な映像美とともに荘厳な筆致で描き出す。主演は、本作の演技でみごとカンヌ国際映画祭主演女優賞に輝いた「スパイダーマン」「マリー・アントワネット」のキルステン・ダンスト。共演にシャルロット・ゲンズブール、アレキサンダー・スカルスガルド、キーファー・サザーランド。
 (allcinema)
 
あらすじ:
Melancholia_25結婚式を終えたばかりのジャスティンとマイケル。2人は披露宴のパーティが開かれる姉夫婦の邸宅に向かっていたが、大きなリムジンが狭い道で立ち往生し、客達を2時間も待たせるはめとなってしまった。さい先の悪い始まりではあったが、友人、知人は2人を祝福し、幸せ一杯の結婚パーティは始まった。
離婚した両親もパーティに参加していたが、母親の場にそぐわないスピーチを聞いた新婦ジャスティンの神経が徐々に不安定になり出し、奇妙な行動をとり始める-


 
とうとう観賞した本作。
アンチクライスト(2009)』の時もそうだったが、観終った後、おもわずとこかへ逃げ出したくなる気持ちに襲われるトリアー監督作。それを何とか押さえ込み、おしりを椅子に乗せてキーボードに指を置いてみた。
では始めます。
 
 
前作『アンチクライスト』同様、本作にも最初にプロローグ部分がある。この監督の場合、このプロローグが作品全体のサマリー(要約)となっており、今回はそこに目次のみならず結末までの全てが詰め込まれていた。そしてこれもまた前作と同様、とても美しい音楽と共にゆっくりしたシーンが展開される。スローでゆったりしてはいるが、中身は非常に濃い。
今回のプロローグはカラーで、とても幻想的な光景が続く。一つ一つのシーンが単独の不思議な絵画のようで、何も見落とすまいとして自然に前のめりになり目をこらすことになる。が、時間はたっぷりある。
 
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プロローグの後、本作は2部構成になっている。
 第1部 ジャスティン
 第2部 クレア
第1部では妹であるジャスティンが、第2部では姉クレアが主人公であり、人生最大のイベントでもある結婚パーティに臨む情緒不安定で鬱を患っている女性と、大きな屋敷で幸せに過ごす主婦が直面する地球規模の災害の、対比とその結末である。
 

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第1部 ジャスティン_____________________
Melancholia_03結婚式を挙げたばかりのジャスティンとマイケル。
2人は、披露宴のパーティが開かれる姉夫婦クレアとジョンの邸宅に向かっている。しかし邸宅に向かう道は狭く、特大のリムジンは途中で曲がりきれず立ち往生。それでも幸せ一杯の新婚カップルは笑顔が絶えず、最後は車を降りて走り出した。
姉の夫ジョンは資産家で、今回のパーティも全てを取り仕切り、場所を提供したばかりか費用も全て持ってくれた。2時間も遅刻した2人だったが、主役の登場でようやくパーティの幕が開けた。
 
皆が笑顔で祝福する中、パーティは進行していく。そんな喧噪の中、ジャスティンが探し求め、かけてくれる言葉を欲しているのは父親と母親だ。しかし-
-昨日あったばかりかのような女を2人はべらし、酔っぱらっている父親。
-世間の全てを憎み、怒りで顔が強ばっているかのような母親。
そんな2人に真っ当な助言をもらえるはずも無い。
 
Melancholia_23ジャスティンが欲しいのは「偽善無き言葉」だ。
暗い鬱の世界に落ちそうになるのを引き上げてくれる、1本の光のロープのような「言葉」。
しかし何度も話しかけてくるのは職場の上司で、披露宴のその場所においても何かアイデアを出せと仕事をすることを迫ってくる。新郎のマイケルは話し下手で、新婦へのスピーチも上手く気持ちを表現することが出来ない。父親のスピーチは自分よがりの内容で、そのマイクを掴み取っておもむろに声を大にして「結婚なんて大嫌い!」と叫ぶ母親。
 
ここで音も無く、ジャスティンの糸は切れる。
 
Melancholia_19両親に抱きしめられたいと今まで思っていたのに、灰色の毛糸が足に絡まって歩けない、と訴える。会場の人々も音楽も、夫でさえも、何もかも煩わしく、一人になれる場所を探し求める彼女。もう言葉なんていらない。
特に「幸せ」という言葉は-。
 
仕事を迫る上司に暴言をはき、夫にも愛想を尽かされ、引き留めた父親も帰ってしまい、パーティは終わった。
甥のレオを慈しむように見守る彼女。それは自分が受ける事が出来なかった無償の愛のなせる自然な行為。彼女に残されたものは、レオを見つめることで癒される時間だけであった。
翌日、姉と馬を走らせるジャスティン。村へと続く道にある小さな橋。ジャスティンの馬アブラハムはどうしてもこの橋を渡ろうとしなかった。

 

前作『アンチクライスト』の記事でも引用させて頂いた農民画家ブリューゲルの絵。今回はこの作品が映画内に出てきたのでご紹介。
brueghel「怠け者の天国」
怠け者の天国(1567):ピーテル・ブリューゲル(Pieter Bruegel de Oude)作
 
16世紀のブラバント公国 (現在のベルギー)の画家ブリューゲル代表作の一つ。
怠惰と暴飲暴食を目的とした架空の世界とそこに存在する住人の様子が描かれている。彼らは職業、階級の差無くただ寝そべり、怠惰な美食の世界に溺れているがなんら罰を受けることもなく、滑稽な姿をさらしている。
 
本作『メランコリア』では、姉婿ジョンの書斎でこの絵が載っている美術本を見つけたジャスティンが、この作品ページをわざわざ開いて本棚に立てかける。
「見よ、現代の怠け者達よ」と、言わんばかりに。

 
 
 
第2部 クレア________________________
Melancholia_04資産家の夫ジョン、一人息子のレオと一緒に広大な邸宅に住むクレア。
夫は優しく、息子も申し分なく育っており、かつ裕福な暮らしに満足している。
あの妹の披露宴パーティから数週間。全てを取り仕切った夫は妹ジャスティンに腹を立てていたが、鬱がひどくなり憔悴しきった様子で再びやって来たジャスティンを見て、ひどく驚き妻と一緒にこの義妹の面倒をみることに賛成したようだ。
 
そんなある日、今まで太陽に隠れていた惑星が地球に接近通過するとのニュースが流れる。元々天体観測が好きなジョンは喜ぶが、クレアは地球に衝突するのではないかと不安で仕方がない。
徐々に近づく惑星メランコリア。
馬たちが落ち着きを無くし嘶くのを見てクレアの緊張感は高まるが、科学者の予測通り、惑星は地球から離れていきほっとする彼女。
それらの様子を見ていたジャスティンは反対に落ち着きを取り戻していく。
 
Melancholia_27ある朝、遠のく惑星を観測していた夫が動揺している様子を見たクレア。何事かと調べてみて愕然とする。一旦遠のいた惑星は、別の科学者により予測された軌道通り、再び地球をまっしぐらに目指していた。目視でも分かるほどどんどん近づく惑星メランコリア。雨が降り、やがて雹となり大地を揺るがす地響きが聞こえる中、パニックに陥ったクレアは息子を連れて逃げだそうとするが、もはや逃げ場は無い。
それを冷めた目で見ていたジャスティンがいた-。


 
 
本作にエピローグは無い。惑星の衝突で地球は無に帰してしまったからだ。
しかし、本当に世界は終わったのか?-。
Melancholia_22本作を観終ってすぐに思ったのは、本当にあった話なのか?という疑問。1部はジャスティンの夢で2部が現実。それとも1部があり、2部がジャスティンの望み?
反対にクレア目線で考えると、1部が願望で2部が現実?いやもしかすると、ジャスティンはクレアが生み出したもう一人のクレアなのかも。
 
いや、冷静に考えて1部があり、その後2部もあったとする。
冷たい両親の代わりに妹の面倒を献身的に見てきたクレアが、惑星が接近するにつれ、その仮面が剥がれだし最後には息子までも放り出して我が身だけを守ろうとする。
逃げだそうにも、何かの力が働いたのか、村に通じる小さな橋をクレアとジャスティンはどうしても渡ることが出来ない。
 
メランコリア(憂鬱)」という名の惑星がぶつかり、消滅したのはジャスティンとその家族だけだったのではないか。迫り来る惑星が各人の偽善をはぎ取り、全てをさらけ出しジャスティンに贈った、家族の崩壊劇ではなかったか。
 
Melancholia_18惑星の衝突と共に、真っ暗な、ブラックホールのような無の世界が広がる。
これは精神的に疲れた者が逃げ込む、最後の砦のようだ。
受けたことのある恐怖や悲しみ、喪失感などに置き換えれば理解できると思う。
 
その暗闇の中から、青く光る美しい地球が再び現れることを祈らずにはいられない。
ではまた

 
ラース・フォン・トリアー監督についてはこちらの記事をご参照下さい 『アンチクライスト』(2009)
 
 


 

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コメント

コメント一覧 (1件)

  • メランコリア 【2011年製作:映画】

    ラース・フォン・トリアー監督の映画「メランコリア」です。
     
    ラース・フォン・トリアー監督と言えば、
    「ダンサー・イン・ザ・ダーク」で有名になりましたね。
     
    アチキ的には、
    最近「アンチクライスト」を見たので、
    記事にもしていますが、
    そういうくら~い感じの映画を撮るのが好きな感じの監督さんというイメージですな。
     
    さて、
    「メランコリア」ですが、
    タイトルからも想像で…

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