『死霊のえじき』(1985) - Day of the Dead –

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灼熱の日々がようやく収まり、夏も終わりが見えてきた。ということで去りゆく夏を全く惜しまずにゾンビホラー『死霊のえじき』。これは非常に引きつけられる邦題が付いているけれど、死霊とかゾンビものホラーというよりも、サバイバル人間ドラマというような内容で、最悪な状況の中で生き残った12人が思う存分ぶつける個々の人間性がとても興味深い。今まで観たゾンビものの中で一番面白く感じた。
 

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■ 死霊のえじき – Day of the Dead – ■
1985年/アメリカ/102分

監督・脚本:ジョージ・A・ロメロ
製作:リチャード・P・ルビンスタイン
製作総指揮:サラ・M・ハッサネン
撮影:マイケル・ゴーニック
音楽:ジョン・ハリソン
出演:
ロリ・カーディル(サラ)
リチャード・リバティー(ローガン博士)
ジョン・アンプラス(テッド)
テリー・アレクサンダー(ジョン)
ジャーラス・コンロイ(ビル)
ジョセフ・ピラトー(ローズ大尉)
アントン・ディレオ(ミゲル)
ハワード・シャーマン(バブ)

解説:
 「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド/ゾンビの誕生」(68)がスリラー、「ゾンビ」(78)がアクションであるならば“リビング・デッド”プロジェクトの最終作である本作はSFを基調としたホラーと言えるだろう。地球全土がゾンビで完全に埋め尽くされた近未来、巨大な地下基地では生き延びた軍部と科学者の対立が続いている。絶望的な状況の中ついに人間関係は崩壊し、基地内に多量のゾンビが流れ込んで来た……。クライマックスの大量虐殺シーンの効果(当然トム・サヴィーニだ!)はシリーズ一の凄まじさとなったが、決してスプラッター映画などではなく「渚にて」に代表されるような破滅型SFの異色作として捉えるべきであろう。これで完結したプロジェクトは「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド/死霊創世紀」(90)で、新たなシリーズとしてスタートする。 (allcinema)

あらすじ:
ゾンビに取って変わられた近未来のアメリカ。フロリダにある広大な地下基地ではゾンビを研究する科学者数名と軍人の12名が立てこもっていた。地上はゾンビがあふれ緊迫する毎日を送っていたが、徐々に人間の結束力は崩れ諍いが起きるようになる-


ジョージ・A・ロメロ“リビング・デッド”プロジェクト3部作の最終作。このシリーズはゾンビホラーでありながら、人間の嫌らしさを見せつける人間ドラマでもある。このプロジェクトの1、2作目は随分前に観たのできちんとは覚えていないけれど、1作目のカラーリメイク『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド/死霊創世記(1990/脚本ロメロ)』のレビューでもそんなことを書いていた自分。
そしてゾンビにも個性を持たせているのがこのシリーズの特徴でもある。  

ジョージ・A・ロメロ
George Andrew Romeroアメリカ合衆国の映画監督。脚本家、編集者、俳優、作曲家でもある。ニューヨーク市出身。ゾンビ映画の第一人者。ホラー映画の巨匠、カルト映画の鬼才として知られる。
幼少時から映画好き。大学卒業後、地元ピッツバーグで1963年に友人とラテント・イメージという映像製作会社を設立、主にCMや産業用フィルムの製作や監督を手掛ける。
1973年に製作者リチャード・P・ルビンスタインと出会い、ローレル・プロダクションを設立。同社製作の現代吸血鬼もの『マーティン/呪われた吸血少年』(1977年)がヨーロッパで話題を呼び、ロメロの才能に気付いたイタリアンホラーの名監督ダリオ・アルジェントが共同出資を申し出て78年に『ゾンビ』を完成させる。
『ゾンビ』は2004年にリメイクされ、『ドーン・オブ・ザ・デッド』(監督:ザック・スナイダー、原題は1978年版と同じ)の邦題で公開された。

■主な監督作
 ・ナイト・オブ・ザ・リビングデッド Night of Living Dead (1968)
 ・悪魔の儀式 Hungry Wives / Jack’s Wife / Season of the Witch (1972)
 ・ザ・クレイジーズ 細菌兵器の恐怖 The Crazies / CODE NAME:TRIXIE / The Mad People (1973)
 ・マーティン/呪われた吸血少年 MARTIN (1977)
 ・ゾンビ Dawn of the Dead (1978)
 ・ナイトライダーズ Knightriders (1981)
 ・クリープショー Creepshow (1982)
 ・死霊のえじき Day of the Dead (1985)
 ・モンキー・シャイン Monkey Shines (1988)
 ・マスターズ・オブ・ホラー/悪夢の狂宴 Due occhi diabolici (1990) ※オムニバス映画
  第1話 「ヴァルドマー事件の真相」 The Facts in the Case of Mr. Valdmar
 ・ダーク・ハーフ The Dark Half (1993)
 ・URAMI 〜怨み〜 Bruiser (2000)
 ・ランド・オブ・ザ・デッド Land of the Dead (2005)
 ・ダイアリー・オブ・ザ・デッド Diary of the Dead (2007)
 ・サバイバル・オブ・ザ・デッド Survival of the Dead (2009)
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Day of the Dead_1985_11『ゾンビ』でダリオ・アルジェントが力を貸していたなんてとっても意外!本作も共同で制作する予定だったのが事情があって協力を得られなくなった。
でもね、観たらすぐに分かるんですが、本作冒頭の科学者サラのシーンがすっごくアルジェントで、あれっ?と思ったんですよね。無機質な白い壁に×で日付を消したカレンダーが一つ。それを食い入るように見ている女性にいきなりたくさんの腕がダーンッ!という音と共に壁から襲ってくる。この白い壁の部屋はまるで精神科病院の病室みたいで、この人は狂っているのか?とも思わせる演出。

Day of the Dead_1985_12そこから一転してヘリコプターがボロボロになった町の上空を飛んでいる場面へ。それでもゾンビはまだあまり映らなくて、まるで80年代の戦争映画か記者もの作品みたいな感じが。
この流れがすごく洒落ていてゾンビものであったことを忘れてしまうほど。
しかしヘリに乗っているのは沈着冷静なパイロットと強気な女性科学者、精神を病みつつある兵士ですでに登場人物の紹介を兼ねており、ヘリの向かう先は広大な地下基地。そこには、もしかしたら人類最後の生き残りであるかもしれない12名がゾンビを避けて立てこもっている。
メンバーはこの3人の他に科学者2名と軍の生き残りの兵士達。冒頭シーンのカレンダーは一月まるまる×で埋め尽くされていたので、少なくとも1ヶ月は立てこもっていることが分かる。なんとかこの事態を打開しようと科学者はゾンビを兵士に捕まえてもらっては研究をしているが、科学者の中でもその非人道的な内容に反対を唱える者あり。兵士側もなかなか成果を出さない科学者にイライラしている状況。

たった12名。もしかしたら最後の生き残りかもしれないという状況で、徐々に諍いが起きてくる。最初は科学者vs兵士だったのが、そのグループ内でも対立が起き始める。皆が生き残るためにどうしていくのか、という当初の目的は次第に薄れ、自分の研究に没頭する者、誰がこの場を仕切るのかのみが大事な者などエゴとエゴの対立となっていく。
そこでとてもシンプルな対策を打ち出したヘリのパイロット。しかし時既に遅く、ゾンビに囲まれた地下基地の中で人間vs人間の不毛な戦いが形を取って起き始める。

Day of the Dead_1985_14本作はもちろんゾンビホラーなんだけれども、対ゾンビというよりも人間vs人間に重きを置いた作品。究極の場面で集められた人間がどうなっていくか、という実験のようでもある。とは言え、ゾンビにやられるシーンは結構グロくて、豚の内臓(本物)を使った生々しいものになっている。

そんな中でシンプルな脱出プランを唱えたパイロットが他にも面白いことを言っていた。
この基地には過去の記録が山ほどあるが、それが一体なんの役に立つというのか?こんな物は全て捨て去ってしまえ。過去より未来のことを考えなくては。
それでも最後のシーンでカレンダーに×を入れずにいられない主人公に人間の性を見た気がした。
ではまた

 

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コメント

コメント一覧 (5件)

  • デイ・オブ・ザ・デッド

     ローズ博士が夢見た「ゾンビの園」
     
     
     
     
     デイ・オブ・ザ・デッド
     (1985年 アメリカ映画)80/100点
     
     
    随分昔に、深夜で「ゾンビ(ドーン・オブ・ザ・デッド

  • 晴雨堂ミカエルさま コメントありがとうございます。
     
    確かに作中ほとんど攻撃的な女性でしたものね。
    最初のそのシーンが一番弱々しく艶めかしい感じかもしれません。
    それにしてもゾンビはやっぱりゆっくり系がいいですねー。
    かじられるシーンもじっくり見られますし[絵文字:i-179]

  •  壁から無数の手がニョキ!
     この時の女性の顔が艶かしい。こんな撮り方がなんとなくアルジェントの趣味を感じます。

  • タイチさま コメントありがとうございます。
     
    この夏、スカパーとかで各種ゾンビものを放送していたので、ダダダッと録画した物の一つです。
    中でもこの作品をとても楽しみにしていました。
    仰るとおり、ゾンビを社会的な何かに置き換えた、風刺を意識した作りになっていました。
    邦題は「・・・オブ・ザ・デッド」よりこちらの方が好きです[絵文字:i-179]
    (ただ単に区別が付かないだけなんですが..)
     
    >どことなく愛嬌を
    確かにです!微笑ましくて生暖かく見守ってしまいました。
    タイチさんのレビューを楽しみにしています!

  • こんにちは。
    すっごい偶然なんですが、私も次回ブログは、本作を書きます。
    ちょっと驚いたのでコメントしました。
     
    この頃のゾンビ映画って真面目だなーって思うのです。
    それなのに邦題で誤解されてると思うなあ。
    ま、でも、確かにグロテスクではありましたね。
    でも、うげーってよりは、どことなく愛嬌を感じたのは気のせいでしょうか。
    CGのない時代に、頑張ってるなあと感心しきりでした。

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