『不意打ち』(1964) - Lady in a Cage –

不運にも自宅の屋敷のエレベーター内に閉じ込められるはめとなった裕福な未亡人を、さらなる恐怖が次々と襲う!公開当時、そのショッキングな内容で論議を呼んだ問題作。

Lady in a Cage_00
■ 不意打ち – Lady in a Cage – ■
1964年/アメリカ/94分
監督 :ウォルター・グローマン
脚本 :ルーサー・デイヴィス
製作 :ルーサー・デイヴィス
撮影 :リー・ガームス
音楽 :ポール・グラス

出演
オリヴィア・デ・ハヴィランド(ヒルヤード夫人)
ジェームズ・カーン(ランドール)
ジェニファー・ビリングスリー(イレイン)
ラファエル・カンポス(エシー)
ウィリアム・スワン(マルコム・ヒルヤード)
ジェフ・コーリー(ジョージ・L・ブレディ Jr.)
アン・サザーン(セード)
チャールズ・シール(故買屋)
スキャットマン・クローザース(故買屋助手)
リチャード・キール(故買屋手下)

解説:
「サイコ」「血だらけの惨劇」など、当時モノクロのサイコ・ホラーや、ベテラン女優が老醜をさらす映画がブームを呼んでいた中で登場したのが本作。不運にも自宅のエレベーター内に閉じ込められた、O・デ・ハヴィランド扮する哀れなヒロインの苦難をよそに、屋敷内に侵入した近所のごろつきたちが好き放題の乱行を繰り広げる、という衝撃的な内容が良識派の憤激を買うこととなり、公開時に大きな論議を呼んだ。日本ではこれまでビデオ化もDVD化もされていないレアな作品。

(WOWOW)

あらすじ:
Lady in a Cage_01街中の大きな屋敷で優雅な生活を送る未亡人ヒルヤード夫人。
一緒に住む一人息子が友人達と旅行に出かけた夏の週末に、電気系統の故障で宅内のエレベーターに閉じ込められてしまう。利口な彼女は冷静に助けを待っていたが、やがて一人のホームレスが酒目当てに屋敷に侵入。そのホームレスに教えられ、年かさの売春婦までもがやって来た。そして二人の様子を観察していた街のごろつきまでもが金品目当てに押し入って来た-


前回の記事の原題『Sucker Punch』つながりで、今回は本作をチョイス。
1964年のモノクロ作品です。

Lady in a Cage_03ヒルヤード夫人は、一人息子マルコムと表通りに面した大きな屋敷で暮らしている。屋敷の中には高価な物が並べられ、息子と二人優雅な生活を楽しんでいる夫人。少し前に腰の骨を折ったため杖をついて少し不自由ではあったが、完治までのしんぼうだ。宅内にエレベーターを設置し、メイドのネリーにも助けられ滋養していた。

息子のマルコムはもうすぐ30歳。心優しい彼は母親のすることに文句を言えない。しかし、もう何年も前から自立して一人で暮らすことを希望していた。だがその話を切り出す度に、母親は屋敷を増築したり改築したりして彼を束縛する。母親を愛している彼も、もはや我慢の限界にきていた。
友人との旅行で家を空けるたび、母親の枕元に愛の籠もった置き手紙をする。この週末の旅行の際にも手紙は置かれたが、その内容はいつもと違い、彼の悲痛な叫びが綴られていた。

Lady in a Cage_10その週末は、マルコムが友人達と週末の旅行に出かける予定になっていた。ネリーが休みの日でもあり、息子は心配したが、大丈夫だと送り出したヒルヤード夫人。本と一輪挿しを持ってエレベーターに乗り2階へと向かうが、ちょうどその時、運悪く電気系統が故障。宅内全ての電気が止まり、エレベーターも3mほど上昇したところで停止してしまう。冷静な彼女は、付近一帯の停電ですぐに復旧するだろうと、まずは落ち着くことにする。

Lady in a Cage_11しかし、いくら待っても電気はつかず、エアコンが停まったことで暑さと喉の渇きが我慢ならなくなってきた。電話が鳴るが、届かない。そこで最後の手段である緊急ベルを押してみることに。
当時の宅内エレベーターの緊急ベルは、メーカーや警備会社に届く物では無く、家の表と裏に設置してあるベルが鳴る。その音に気がついた近所の人や、通りがかった人へ助けを求めるベルである。
何度も何度もベルを押す夫人だったが、誰も反応しない。そこで夫人は思い出す。近所で鳴っていたときに自分も無視していたことを-。

Lady in a Cage_16しかし一人の人間がそれに気がついた。アル中ホームレスのジョージだ。
好奇心で敷地内に入って行く彼。しかし彼がその目を釘付けにされたのはエレベーターの夫人では無く、キッチンに置かれていた酒だった。その酒欲しさに扉を破り屋敷に侵入。夫人の助けを呼ぶ声などお構いなしにワイン貯蔵庫に向かう彼。持てるだけのワインをズボンのポケットに突っ込み、金になりそうなトースターを手にして家を出、まっすぐ故買屋に向かう。夫人はため息をつくしかなかった。
いくばくかの金を手にしたジョージ。しかしそれを見ていた街のごろつき達がいた。

ジョージは金を手に売春婦セードの所へ向かい、金目の物が盗み邦題の屋敷があると話し、興味を持ったセードまでが屋敷に向かう。女性の声を聞きつけたヒルヤード夫人は必死に助けを乞うが聞き入れられず、二人は夫人が大切にしている物を物色し始める。
しかしこの二人は夫人にとって、まだましな単なる泥棒だった。
本当の恐怖はこの後、ジョージを付けてきたごろつきランドール一味がやって来たときに始まった-


Lady in a Cage_18本作に登場するのは、ろくでもない人物だらけだ。
助けを求める声を無視して人の家に侵入し、酒や金目の物を盗もうとするホームレスと女。特に女は夫人の愛する息子が生まれたときに作らせた、名前入りの金のカップまで盗もうとする。
そして後からやって来るランドール一味の3人組。家の中を荒らし回ったあげく、風呂に入り、顔を見られたからにはと、夫人とホームレス、女を殺してやると息巻き脅す。
そして、その3人も驚きの本物のギャングまでもが3人を殴りつけ、彼らの獲物を横からかっさらい盗み出して行った。

Lady in a Cage_02夫人は、この家は大きな通りに面しており、車も人もたくさん通るから誰かが気づくと思いベルを鳴らし続けるが、誰も気にもとめない。ひっきりなしに行き交う車は、ひかれた犬の死体には注目しても、鳴り続けるベルには興味が無い。
しかし、その夫人からして、息子を金と物でがんじがらめにして半ば自由を奪い束縛しているが、それに気がついていない。
そして息子マルコム。母親の前ではいい子を演じ、言いたいことも面と向かっては言えず。とうとう「置き手紙」という形で要約すると‘このままだったら、自殺してやる’と書き置きし家を出る。

夫人は身動きできないエレベーターの中で、何とか逃げ出した家の前で、思いを馳せる。
元々この土地に住んでいた人たちを立ち退かせて開発されたこの住宅地に。
大きな屋敷が建ち並ぶすぐ横には、裕福とは言えない元々の住人達が住んでいるが、自分達は完全に無視して暮らしてきたことに。
命を守るためには何の役にもたたない不必要な高価な物に。
扉も窓も閉め切って使用する、文明の利器である電気に依存した生活に。
そして息子を自殺したいとまで追い詰めた自分に。

警察が来て助かったことが分かったとき、彼女は通りに向かって、物見遊山で集まった人々に向かって叫んだ。
「この、人でなし」と。
そこにいるのは、物語最初の裕福で上品な未亡人の姿ではなく、自分で自分の命を守った女の姿だった。

ではまた

オリヴィア・デ・ハヴィランド(ヒルヤード夫人)
Lady in a Cage_13日本生まれのアメリカ合衆国の元女優。
1939年の『風と共に去りぬ』(メラニー役)でアカデミー賞にノミネートされる。その後、演技派女優としての地位を築き、1946年の『遥かなる我が子』と1949年の『女相続人』でアカデミー主演女優賞を2度受賞している。また、『蛇の穴』でヴェネツィア国際映画祭 女優賞も受賞。同じくアカデミー女優である妹のジョーン・フォンテインとの確執は有名。
久しく表舞台から遠ざかっていたが、近年アメリカのアフガニスタン侵攻・イラク戦争を非難、これらに反対したフランス政府・人民の対応を支持している旨発言し話題となった。
2003年には第75回アカデミー賞授賞式に登場。ステージに立ち、青いドレスで元気で華やかな姿を見せ、世界中に健在ぶりをアピールした。1916年生まれ (Wiki)
■主な出演作品
・真夏の夜の夢 -A Midsummer Night’s Dream (1935)
・ロビンフッドの冒険 -The Adventures of Robin Hood (1938)
・風と共に去りぬ -Gone with the Wind (1939)
・遥かなる我が子 -To Each His Own (1946)
・蛇の穴 -The Snake Pit (1948)
・女相続人 -The Heiress (1949)
・見知らぬ人でなく -Not as a Stranger (1955)
・ふるえて眠れ -Hush… Hush, Sweet Charlotte (1964)
・冒険者 -The Adventurers (1970)
・エアポート’77/バミューダからの脱出 -Airport ’77 (1977)
・スウォーム -The Swarm (1978)
・アナスタシア/光・ゆらめいて -Anastasia: The Mystery of Anna (1986)

ジェームズ・カーン(ランドール)
Lady in a Cage_19ニューヨーク市ブロンクス出身の俳優。
テレビシリーズの『アンタッチャブル』などに出演し、1964年に本作『不意打ち』で映画デビュー。1972年の『ゴッドファーザー』でアカデミー助演男優賞にノミネートされた。
実力のある俳優であるものの、『ゴッドファーザー』の豪放な長男ソニー・コルレオーネ役のイメージが強すぎて以降は苦戦している感があったが、近年は性格俳優として『ラスベガス』などのテレビドラマから『恋するための3つのルール』や『エルフ ~サンタの国からやってきた~』の様なコメディ、さらに声優など幅広いジャンルにその活躍を広げている。
また、ソニーがイタリア系アメリカ人という設定であったこと、五大ファミリーのドンと友人であったことから彼もイタリア系というイメージが付きまとうが、ユダヤ人移民の子孫である。
実はかつて、スーパーマンの主人公であるスーパーマンにキャスティングを推薦されたが、「アホらしいスーツなんて着て芝居が出来るか!!!」と断ってしまったという。 (Wiki)
■主な出演作品
・エル・ドラド -El Dorado (1967)
・ゴッドファーザー -The Godfather (1972)
・ゴッドファーザー PART II -The Godfather Part II (1974)
・ローラーボール -Rollerball (1975)
・遠すぎた橋 -A Bridge Too Far (1977)
・愛と哀しみのボレロ -Les Uns et les Autres(1981)
・エイリアン・ネイション -Alien Nation (1988)
・ディック・トレイシー -Dick Tracy (1990)
・ミザリー Misery (1990)
・シティ・オブ・ゴースト -City of Ghosts (2002)
・ドッグヴィル -Dogville (2003)
・ゲット スマート -Get Smart (2008)
・くもりときどきミートボール -Cloudy with a Chance of Meatballs (2009)声の出演
・フェイク・クライム -Henry’s Crime (2011)

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • いつもありがとうございます。
     
    >町山智浩さんの「トラウマ映画館」
    今回、作品について調べていてこの本を知りました。
    興味惹かれる、面白そうな本ですねー!
    やっぱりネットに頼った生活ではなく、きちんと本屋に通わなくては見つけられない物がある、と実感しました。
    (でも近所の本屋は次々と店じまい・・)
     
    この本の中から何も知らずに本作、『質屋』、『戦慄! 昆虫パニック』の3本を録画していました。
    後の2本も近々記事にする予定です。
     
    >イマジカあたりで
    この作品はビデオ、DVD化されていないという事なので、IMAGICAに期待ですね..。

  • こんばんはー。
     
    コレは少し前に買った町山智浩さんの「トラウマ映画館」という本で初めてこの作品の存在を知りました。
     
    それを読んで面白そうだなーと思っていたのですが今回の記事を読んでますますその思いが強くなってしまいました。
     
    今現在家庭の事情で(ーー;)レンタルは使ってないのでイマジカあたりでやってくれたら良いんですけど・・・

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